海のなかの炎
−サントリーニ火山の自然史と
アトランティス伝説−

「海のなかの炎 −サントリーニ火山の自然史とアトランティス伝説」
ワルター・L・フリードリヒ、郭資敏、栗田敬訳 古今書院
2002年6月刊 5,800円 ISBN4-7722-4034-9

第1部 地質学背景(サントリーニをめぐる地理学的環境;プレート・テクトニクスから見たサントリーニ ほか)

第2部 ミノア噴火とその影響(ミノア噴火のメカニズム;くだんの大災害はいつ起こったか?)

第3部 解明された火山の秘密(青銅器時代のポンペイ;青銅器時代のサントリーニにいた生きもの ほか)

第4部 島はその姿を変えゆく(再び埋まるカルデラ;今日の火山活動 ほか)

 

 かつて大西洋(?)に大きな大陸があり、そこには高度な文明を誇った強国があったという。そのアトランティス大陸が、一夜にして海に没したというのが、アトランティス伝説である。

 アトランティス伝説は、ギリシャの賢人プラトン(B.C.427〜347)が、ギリシャの賢人ソロン(B.C.640〜560)が、エジプトの神官から聞いた話という形で紹介しているものである(又聞きの又聞き?)。当時から、これはプラトンの空想にしかすぎないという説もあり、プラトンの弟子のアリストテレス(B.C.384〜B.C.322、アレキサンダー大王(B.C.356〜B.C.323)幼少のころの家庭教師も務めた)もそういう立場である。

 しかし、モデルはあったという考えもあり、その一つが地中海のギリシャ南部エーゲ海に浮かぶサントリーニ火山(主島ティラ)である。このサントリ−ニ火山が紀元前1,600年ころに巨大噴火を起こし、そのために近くのクレタ島のミノア文明までが壊滅したというものである。

 この本は、サントリーニ火山の自然史(地質学的、火山学的)ばかりではなく、考古学の立場から、総合的に述べている。「地質学から見たアトランティス伝説」という章もあり、この本を読みと、一時は人気がなくなったいわれる「アトランティス=サントリーニ火山説」も、なかなかのものであると思わせる。

 ちなみに、中米のアステカ帝国にやってきたスペイン人コルテス(1519年、完全征服は1521年)は、その首都ティノチティトランの構造が、プラトンの記述したアトランティスにそっくりだったことに驚いたという。湖のなかの人工島上の都市ティノチティトランは、いまはまわりを埋め立てられ、メキシコシティの一部になっている。この埋め立て地は地盤が悪く、その上の建物は再三地震の被害に遭っている。

 なお、サントリーニ火山とアトランティス伝説については、「アトランティス伝説の謎」(金子史郎、講談社現代新書328、昭和48年)、「ヨーロッパ火山紀行」(小山真人、ちくま新書130、1997年)も参照。

2002年7月記

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