1 人口と食料

 現在の地球の人口は約70億人、しかもまだどんどん増え続けている。問題は、こうした人口を、この有限な地球が養っていけるかである。

 1・1 人口

 (1) 人口爆発

 人類は過去にも人口爆発を体験している。それは農耕・牧畜の発明である。この農耕・牧畜によって、それ以前の狩猟・採集時代と比べると、単位面積当たりで養える人口が飛躍的に増えた。そしてこれによって、直接食糧生産に携わらなくてもいい人が登場したことになる。

 われわれの生存のもとになっているのは太陽エネルギーである。エネルギーの流れを見てみると、狩猟・採集時代はこれは一方向の流れでしかなかった(図1−1の細線)。農耕・牧畜は、フィードバック回路をつけたことになる(図1−1、フィードバックについては6・1参照)。つまり、農耕や牧畜は、穀物の栽培・家畜の世話という形で、穀物や家畜を食べて得られたエネルギーの一部を戻しているわけである。これによって、太陽エネルギーの利用効率が飛躍的に増大した。農耕・牧畜革命により、自然採集時代の太陽エネルギー利用効率0.000025%が、0.001%〜0.02%にまで上がったといわれる。つまり一定の面積で養うことができる人口が、40倍〜800倍になったことを意味する。

※ 単純に自分の労働をフィードバックするだけでなく、家畜の得たエネルギーをもフィードバックしている。


図1-1 太陽エネルギーと食料

 現在の人口爆発は、産業革命によって引き起こされたものである。工業製品、具体的には化学肥料、農薬、農機具などを投入することによって、フィードバック回路をさらに太くし、その結果、太陽エネルギーの利用効率がさらに高まったわけである。先進国の農業技術では、その効率は0.07%〜0.1%程度にもなっている。エネルギー的には、生物としてのヒトが消費するエネルギー(食物として口にするエネルギー)よりも、工業など社会生活で消費するエネルギーの方が上回ったということである。(3・2の(1)参照)。

 いち早く産業革命を成し遂げたヨーロッパ諸国は、その人口爆発によって増えた人口を「新大陸への移民」という形で乗り切った。今日すでに「新大陸」はない。もう一つ、産業革命を支えた科学技術は、すわなち医療技術の進歩をも意味しているし、衛生状態の改善、ようするに生活環境全体の改善をしたわけで、それも、人口爆発に一役買っている。

 世界人口カウンタWorld Populatin  (https://www.census.gov/popclock/)によると、2010年初頭で世界の人口は約70億人(2011年初頭で70.8億人、2010年初頭で69.7億人)、2019年2月末で75.6億人。人口増加率は1.1%である。だから、1年後には75億×(1+0.011)。人口増加率が同じなら2年後にはその人口がまた1.1%増えることになるから、(75億×(1+0.011))×(1+0.011)=75億×(1+0.012)2。同様に3年後には75億×(1+0.011)3。結局t年後には70億×(1+0.011)t


2019年2月28日09時ころの世界人口カウンター
https://www.census.gov/popclock/

だから、75億人の人口が2倍になる期間をt(年)とすると

2×70億=75億×(1+0.012)t

両辺を70億で割り、さらに対数をとって
log2=t×log(1.011) 

よって t= log2÷log1.011 =63.4(年)

※ 対数(log)についてはこちらを参照。               

 つまり約60年で人口が2倍になる。このままでいけば世界の人口は、60年後の西暦2080年には現在の倍の140億人、その60年後の西暦2140年にはそのまた倍の280億人ということになる。これだけの人口を地球は養っていけるだろうか。実際にはそれほど増えないだろうが、これまでの人口の推移と、将来人口の予想を下に示す。

図1−2  紀元後の人口の推移
http://fig.cox.miami.edu/~cmallery/150/handouts/sf48x5a.jpg
1750年〜2050年地域別人口の推移 資源エネルギー庁エネルギー白書2010
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010/2.pdf
図1-3 人口予想 アメリカ国勢調査局
http://www.census.gov/ipc/www/img/worldpop.gif

※ 現在の地球の総人口(推定値)は、国立社会保障・人口問題研究所 http://www.ipss.go.jp/ の〔リンク〕をクリックすると、世界人口カウンタWorld Populatin  (http://sunsite.unc.edu/lunarbin/worldpop)が出るので、そこで見ることができる。

※ 世界人口の細かい推移は、国連の http://esa.un.org/unpp/ も参照。

 現在の人口増加の地域的な違いを見ると、先進国とさらにはアジア地域ではの人口爆発は一段落、あるいは減少が視野に入ってきているのに対し、アフリカの人口増加率は今なお高い。発展途上国の人口増加の問題はそう簡単ではない。貧困・風習が高い出生率を維持している。さらに、医療技術がもたらされたことにより、子供の死亡率が低くなった。そのことがこの地域の高い人口爆発につながっている。しかし、その地域の社会的・歴史的背景を無視しては解決できないだろう。それぞれの国・地域にはそれぞれの問題がある。

 中国の強制的な「一人っ子政策」、それと対照的なインドの存在があり、インドが世界で人口最多の国になるのも遠くないだろう。

※ 中国の一人っ子政策(漢民族に適用)は、その結果の急激な少子高齢化が明白になってきたこともあり2015年からは二人っ子政策に転換した。

 またアフリカの一部ではエイズの蔓延によって、人口増に対してブレーキがかかり始めたともいわれている(日経サイエンス2000年8月号)。これはこれで、また別な問題が生じていることを意味する。

※ より詳しい世界の人口予測は、例えば国立社会保障・人口問題研究所(http://www.ipss.go.jp/)の全体の目次から<人口問題関係>を選択し、「人口統計資料」を参照。また、国立社会保障・人口問題研究所(http://www.ipss.go.jp/)のトップページには、日本の人口ピラミッドの推移のアニメーションを見ることもできる。

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