第二部−3− 大気と海の科学

第21章 潮汐

目次
1. 潮汐
2. 潮汐によって起こる現象
a.地球の自転の遅れ
b.潮流
c.タイダル・ボア
用語と補足説明
このページの参考となるサイト

戻る  このページのトップへ  目次へ  home

1.潮汐

 潮の満ち引き(潮汐)はだいたい1日に2回ある。これは、下図のように月に面した側の海水(海面)と、その反対側の海水(海面)が盛り上がるためである。

 月に面した側の海水(海面)が、月の引力により盛り上がるのはいいとして、なぜ反対側の海水(海面)が盛り上がるのだろう。これはまず、ふつうは月は地球のまわりを回っているといってしまうが、厳密には地球も月も、地球と月の重心のまわりを回っていること考えなくてはならない。

 このとき、地球の中心がO1→O2と動いたとき、地球上のそれぞれの地点は(地球の自転を考えなければ)A1→A2、B1→B2、C1→C2と動く。このときO11とO22、O11とO2B2、O1C1とO2C2は平行である。だから、A、B、Cの各地点は、地球の中心Oが地球と月の重心のまわりを円運動すれば、同じ半径で円運動をしていることを示す。

 もう一つ、地球に及ぼす月の引力(万有引力)は、月により近い月に面した側で強く、反対側では弱いことである。この月が地球に及ぼす引力は、地球の中心において、地球が地球と月の重心を中心として回転しているために生ずる遠心力をつり合っている。逆にいえば、つり合っているために、地球は地球と月の重心を中心としてその距離を変化させない(これは地球と月の距離が変化しないことでもある)安定した運動を行っているのである。

 一方地球の各部の動きは、地球の中心とまったく同じ大きさ・同じ速さの円運動を行っている。だから、この円運動による遠心力はどこでも同じ向きと大きさである。そこで、地球の中心ではつり合っている月の引力と、地球の円運動の遠心力は、それ以外でつり合わないことになる。この差が潮汐を起こす力、起潮力となる。つまり、起潮力は各地点で働く引力の大きさ(と向き)の違いによって生ずる。

 この起潮力はつきに面した側では月に向かい、反対側では月と反対の方を向く。こうして、地球の海水(海面)は、月に面した側と反対がの両面で盛り上がることになる。また、月と90°離れたところでは、その力(起潮力)は地球の中心の方を向き、そこの海面は下がることになる。

 イメージとしては、月に近い側の海水は引き寄せられ、反対側の海水は取り残されるという感じである。起潮力の大きさについてはこちらを参照

 地球に引力(起潮力)を及ぼしているのは月ばかりではなく、太陽も引力(起潮力)を及ぼしている。だから、月による起潮力と太陽による起潮力が一致する新月と満月のときに干満の差が一番大きい大潮となり、月による起潮力と太陽による起潮力が一番相殺される上弦の月と下弦の月のときに干満の差が一番小さい小潮となる。月と太陽の引力と起潮力の比較についてはこちらを参照

 干満の差は計算上では大潮のときで53.4cm、小潮のときで28.8cmである。しかし、実際には地形等の影響で場所により大きく異なる。カナダ東南部のファンデー湾ではそれは15mにもなる。朝鮮半島の西海岸の仁川でも10mに達する。日本では有明湾の奥の5mが最高である。日本の関東以北の太平洋岸では1.0m〜1.5m、東海から南西諸島にかけては1.5m〜2.0m、瀬戸内海の西部から中部では3mになる。日本海側は20cm〜50cmと小さい。

  なお実際の潮汐は、月が南中したときに必ずしも満潮になるわけではない。月の南中よりも遅れるのがふつうである。日本各地のその日の潮汐については、海上保安庁水路部を参照。

 また、春分や秋分のころは太陽も月も赤道の上にあるので、大潮のときの干満の差が大きくなる。一方夏至や冬至のころはそれが小さい。宮古島の八重干瀬(やびし、やびひ、やえびし)は、旧暦の3月3日の干潮時に広大なサンゴ礁が海面に顔を出すといわれているが(幻の陸地とまで)、たしかに春分のころに干満の差が大きくなるので見やすくはなるが、この時期にだけ顔を出すわけではない(もっと海面が下がるときもある。ただし上陸が許可されているのは春分のころの大潮のとき。)。韓国の珍島の海割れも同じである。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home

2.潮汐によって起こる現象

a.地球の自転の遅れ

 下の潮汐の図を見てみると、海水(海面)のの干満は地球と取り巻く大きな二つの波であることもわかる(波は状態を伝えるだけで、波を伝える媒質(この場合は海水)そのものが波の進行方向にずっと動いているわけではないことに注意)。そして、地球は1日で1回転するのに対し、この波は27日で地球を1回転する。つまり地球(固体部分)を止めて考えると、この波は地球の自転と逆向きに進む波であることがわかる。潮汐は地球の自転に対してブレーキをかけるようにはたらくのである。このことについてはこちらを参照。また、この反作用として、月は地球から毎年約4cm(3.8cm)ずつ遠ざかっているのである。

b.潮流

 潮汐は非常に波長・周期の長い波、地球を2波で取り巻く波ととらえることができる。だから、干潮から満潮へは約6時間かかって海面が盛り上がってくるし、逆に満潮から干潮へは約6時間かかって海面が下がっていく。このときの海水の動きが潮流である。だから、潮汐と潮流は同じ現象を別な角度で見たものである。潮流はとくに狭い海峡ではその流れは強くなる。例えば鳴門海峡の渦はこうした潮流がつくる渦である。なお、鳴門海峡にできる渦の巻き方については、鳴門観光汽船のサイトを参照。


鳴門海峡の渦:鳴門観光汽船
http://www.uzusio.com/wonder.html

c.タイダル・ボア(潮汐波)

 河川に上げ潮が進入すると、前面が切り立ち崩れながら、背後はなだらかな形となる。これは津波と同じで、波の進行速度が深さの平方根に比例するために、浅い河川に上げ潮が進入すると前がつかえるためにそのような形になるのである。

 とくに河口がラッパ上に開けていて、河にはいると水深が浅く川幅が狭くなるような河では大きなタイダル・ボアが発生する。アマゾン川のポロロッカ、中国の銭塘江(せんとうこう、ちぇんたんこう)の海嘯(かいしょう)がそれであり、高さ3m以上に達する。そして、河口から100km以上も遡上するという。

アマゾン川のポロロッカ。最近ではこの波をサーフィンで楽しむ人もいるようだ。
http://www.santoinacio-rio.com.br/amazonia2008/site55/Rios/pororoca.html
銭塘江の海嘯:中国杭州市旅游委員会(政府観光局)
http://www.xitong.net/hztour/gyakuryu.html


戻る  このページのトップへ  目次へ  home


用語と補足説明

潮汐の周期月に面した側の満潮から満潮までの周期は、地球のある地点で月が南中してから南中するまでの周期である。これは地球の中心から見れば、地球表面のある地点と月との会合周期と考えることができる。地球の対恒星自転周期は0.9973日、月の対恒星公転周期は27.32日である(データはこちらを参照)。

 月が南中している地点の反対側も満潮になっているので、満潮から満潮までの周期は24.84時間の半分の12.42時間(12時間25分)となる。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home

地球と月の重心の位置地球の半径をRとすると、地球と月の距離は60R、地球の質量をMとすると月の質量は0.0123M(データはこちらを参照)。地球の中心から重心までの距離をXとすると、月の中心から重心までの距離は(R−X)。

 M×X=0.0123M×(60R−X) → X=0.729R。つまり本当は、地球と月の重心は上図のように地球の外にあるのではなく、地球の半径をRとし、下図のように地球の中心から0.729Rという位置(地球の内部)にあることがわかる。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home

円盤の回転と各点の動き下図のように厚紙で円盤をつくり、円盤を円盤外の点を中心としてそのまま回すことができるように、円盤の中心とその点を糸で結んでおき、その円盤の端に近い所にあけた穴に鉛筆を通しておく。この円盤を下図のようにそのまま回転させたとき、鉛筆が描く円は、円盤の中心が描く円とずれているだけで、同じ大きさの円を描くことを試してみればよい。穴の位置がどこにあるときでも、中心と同じ円を描くことに注意。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home

起潮力の大きさ半径R、質量Mの天体に、距離rだけ離れた質量mの天体が及ぼす起潮力を考える。この二つの天体の中心ではお互いの質量に比例し、距離に反比例するに引き合う力(万有引力)が働いている。これは、上の重心のまわりの回転による遠心力とつり合っている(向きが逆で大きさが同じ)。また、質量mの天体に近い側(下図A)では、質量Mの天体の半径分距離が小さく、その分引力が大きい。逆に反対側のBでは引力が小さい。

 中心での引力fO(つまり遠心力は−fO)、Aでの引力fA、Bでの引力fBとすると、Aでの起潮力はfA−fO、Bでの起潮力はfB−fOとなる。ここで万有引力定数をGとする。

 つまり、起潮力はAとBでは大きさが同じで向きが反対の力であることがわかる。さらに起潮力は万有引力と違い、距離の3乗に反比例する力であることもわかる(万有引力は距離の2乗に反比例する力)。つまり、起潮力は場所による引力の大きさの差なので、引力を及ぼす天体までの距離が遠くなると起潮力はどんどん弱くなる。

※ 起潮力は質量の積と天体の半径に比例し、距離の3乗に反比例する力である。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home

引力と起潮力の比較:月と太陽の引力(万有引力)と起潮力:太陽と月が地球に及ぼす引力と起潮力を計算してみる。地球の半径をRとすると、月と地球の距離は60R、地球と太陽の距離は23500R(約24000R)、地球の質量をMとすると、月の質量は1.23×10-2M、太陽の質量は3.3×105Mである。また万有引力定数をGとする。

 以上の結果から、潮汐はおもに月によって引き起こされることがわかるが、太陽の影響も無視できないこともわかる。

 ついでに、太陽が月に及ぼす引力(太陽−月の引力)と、地球が月の及ぼす引力(地球−月の引力)を比べてみる。

 これは、太陽−地球−月という関係で見ると、地球は太陽のまわりを回っているのはもちろん、月も太陽のまわりを回っていることがわかる。月は太陽のまわりを回っているが、地球の引力のために少しふらついているという感じである。これについてはこちらを参照

戻る  このページのトップへ  目次へ  home


このページの参考となるサイト

戻る  このページのトップへ 目次へ  home