地球物質大循環

地球46億年 物質大循環 月村勝宏 講談社ブルーバックス ISBN978-4-06-534672-3 1,200円 2024年1月

 地球化学的に見た地球史。とりわけ元素とその化合物の地球上での循環を見る。化学平衡式がたくさん出てきて、面倒な感じをまずもってしまう。

 気になる点もいくつかある。地球初期におけるジャイアントインパクとはたくさんあり、しかも地球形成後のかなり後まで続いたとか、海洋地殻の大陸地殻化(玄武岩の花崗岩化、大昔ソ連(当時)のベローソフ=アンチ・プレートテクトニクスの理論的支柱)も唱えていた)とか。事実かも知れないが、定説ではないので、読者はそういう説もあるという感じで読めばいいと思う。

 細かいことをいうと、太陽系の元素ごとの相対量を、話を親しみやすくするためだろうが、総額100万円としてそれぞれの元素がいくらかという表があるが、その量が質量なのか元素数なのかわからない。あと、圧力の単位としていきなりbarを出してくるが、中高生も読むだろうブルーバックスという性格を考えると、SI単位系にはないbarの説明をまず持ってくる方がいいと思う。1 bar =10^5Pa(約1気圧)と。

 「周期律表」という言葉も出てくるが、現在では「周期表」で統一されているはず。

 致命的なミスは、地球内部の熱源をマントル物質の核分裂としていること(複数箇所出てくるので単純ミスではないと思う)。また、自然界で核分裂を起こすウランは235ウランとしていること。核の崩壊(壊変)と核分裂はきちんと区別した方がいいと思うし、自然核分裂は質量数の大きいウラン238の方が起きやすい(だから年代測定法の一つとして、ウラン238の自然核分裂の傷跡を数えるフィッショントラック法がある、ウラン235は中性子をぶつけると複数の中性子が飛び出すので、連鎖反応を起こす=核爆弾や原子炉の燃料として使える)。たんにマントル物質としないで、きちんとウラン、トリウム、カリウム40などの放射性同位元素といったほうがいい(ほかのところでいろいろ細かい元素名・化学物質名をだしているので)。

 また最初の酸素発生生物として「藍藻」という言葉が出てくるが、うしろには「シアノバクテリア」ともあるので、後者に統一した方がいい。藍藻という言葉は植物を連想させるので、現在では使われていないと思う。
 全体としては、元素・物質のフローは解説しているが、ストックはあまり説明していないという印象になる。マグマオーシャンの段階でいったん均一化されたマントルは、その歴史的な過程で不均一になっていったはず、また、地球上には(地球の元となった太陽系の物質のなかでは)微量なはずの元素(金・白金・ウランなど)がなぜ人類が利用できるほど濃縮しているのか)というようなことに対する説明がない。

 地球は熱機関という見方はいいと思うが、それは物質の大循環ばかりではなく、微量元素をマントルから汲み上げるとか、さらには地震とか火成活動とか、プレートテクトニクス、マントルプルームなどすべてが、地球という熱機関で動いていること(その結果地球が進化してきたということ)、さらには核の熱の問題もある。こうしたことも触れた方がよかったと思う。

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2024年4月記

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