古代中国の裏社会 柿沼陽平 平凡社新書 ISBN978-4-582-86078-8 1,000円 2025年3月

 なんといっても漢の時代、すなわち日本ではまだ弥生時代に、中国では既に現在とあまり変わらない社会−裏社会があった、経済的に既に貨幣経済(だから、贋金造りもいる)、今と同じようなお店(酒場を含む)もあり、当然金銭的な貧富の差もあったということに驚く。

 この本で取り上げられているのは、漢の武帝(孝武帝)のころ(紀元前1世紀ころ)の侠客・郭解、裏社会で隠然とした力を持ち、表社会にもその力を利用する者がいるという存在。孝武帝によって金持ちたちが落陽から強制移住させられたとき(大将軍衛青の彼はお金持ちではありませんという口添えが返って怪しまれて)、多額の餞別が贈られたという。映画「ゴッドファーザーI」で、ドン・コルレオーネの娘コニーの結婚式に多額の現金(それも小銭で)がお祝いとして贈られたシーンを思い出す。

 若いころはたくさんの人を殺したが、また贋金や墓暴きでの稼ぎもしたが、「恩赦」を意図的に使って(すわなちお役人からの情報がえられる立場)、うまく生き抜いてきた。だが、その力のために、彼を侮辱した者に対し、郭解の“子分たち”が怒ってその者を殺してしまう。直接の下手人ではないが、郭解の影響での殺人ということで、最後は死罪になる。

 という話だが、全体を読むと一番先に書いたような、現代社会とあまり変わらない(人類社会は進歩していない?)、当時の社会が思い浮かべるようになる。

 もう一度「史記」(司馬遷)、とくに“列伝”を読んで見たくなった。幸い、「史記」は平凡社「古典中国文学大系」の全3巻本を、断捨離せずに持っている。とりあえず游侠列伝(下巻)は読んだ。何人かの侠客の話が出ているが、郭解が一番詳しいし、さらに太史公(司馬遷、ただし実際に郭解を見たのは父の司馬談かもしれないという)の人物評が出ている唯一の人。司馬遷の彼に対する人物評はあまり高くないが、処刑されたのは惜しいことだという矛盾した感想になっている。

 史記の列伝に書かれている人たちは、魅力的な人が多いので(司馬遷が共感して書いているから?)、もう一度読みたくなった。

※ 目次は裏表紙帯

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2025年6月記

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