日本人拉致 蓮池薫 岩波新書 ISBN978-4-00-4332064-7 940円+税 2025年5月

 北朝鮮に拉致されたその人自身の証言なので重い。拉致されたときの様子、北朝鮮での生活(与えられた仕事や生活)、そのときの北朝鮮の揺れる諜報活動や幹部たちの思惑、、日本一時帰国時の緊迫など(当初は一時帰国の予定だった)。また、一時帰国の準備のため平壌(ピョンヤン)のアパートに移されたとき、食糧などの生活用品は配達されていたが、受け取り時に受ける周りの人たちの羨望の目などのリアルさ。平壌に住めるというだけで北朝鮮ではかなり恵まれた人たちだろうが、それでもいい品物が手はいらないという北朝鮮の一般市民。

 2002年に北朝鮮が拉致を認めたことを境に、日本の北朝鮮観は激変したと思う。ああやっぱりという人たちと、まさか北朝鮮が本当にという人たちがいたと思う。自分は前者だったが、なぜ北朝鮮(当時は金正日(キム・ジョンイル))が自ら拉致を認めたのかが不思議だった。この本では、その理由も考察している。

 後者についてはいろいろな思いがある。個人的な思いは別にして、客観的にはこれを機に組織が瓦解したものが二つ。一つは旧日本社会党、社会党の組織崩壊の理由はこれだけでないだろうが、要因の一つだと思う。もう一つが朝鮮総連。理想化していた・期待していた・支持していた母国の現実を突きつけられたときの絶望と哀しみ。

 先日(2025年5月26日(初回放送2021年2月22日))NHKBSP「アナザーストーリーズ『イムジン川』」をやっていたので見てみた。1968年発売される予定だったフォーククルセダーズの「イムジン川」が、発売される直前に発売中止となった件。発売中止を強く東芝レコードに迫っていた、当時はそれなりの力を持っていた朝鮮総連で、音楽部門を担当していた人へのインタビューもある。

 公式には著作権の問題ということだが、歌詞の中の「我が祖国 南の地」が感情的にいけなかったのだと思っていた。だが、イムジン川には2番もあり、その2番は南(韓国)と比べて、北がいかに素晴らしいかという内容で、日本語の歌詞をつけた松山猛がそれを知らず(その理由は番組でいわれていた)、それを無視したことが大きいのではないかと思う。

 国家間、宗教間、“民族”間による紛争・戦争、さらには拉致を含む陰謀、すべて犯罪だと思う。ただ、それを止められない人類って、その程度のものかというあきらめにも似た思いがよぎる。

 目次は裏表紙帯を参照。

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2025年6月記

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