サリン それぞれの証 木村伸介 角川文庫 ISBN978-4-04-115654-4 880円 2025年2月(2015年3月単行本の文庫本化)

 2025年3月20日で地下鉄サリン事件(1995年3月20日)から30年たった。この本は事件後20年で出版され、その10年後に文庫本化された本。

 現場にいた人たち、救助に出動した人たち、医師たち、被害者たち、被告たち、また地下鉄以外の松本サリン事件で犯人扱いされた河野氏、オウム真理教に立ち向かった坂本弁護士拉致事件と坂本弁護士の母、さらには実行者、信者たち、家族たち、さらには事件後にも医療・カウンセリングと続ける人たちなど関係者たちの証言を中心に事件をまとめる。被害者たちや思いを読むとやるせなさを感じるし、また当時の警察の予断と偏見には憤りを感じる。

 松本サリン事件については、731部隊研究で有名な常石敬一氏が果たしたネガティブな役割にも言及している。あらゆる面で完全な人はいないのだから当たり前(しかたない)。それにつけても、誰も怨まない態度を貫いた河野義行氏の人間性には驚くばかり。

 あとがきでは「テロ生むのは貧困と教育の欠如」という“通説”に異議を唱えているがどうだろう。確かに実行犯は比較的裕福な家の生まれ、ある程度高学歴という事実はあるかもしれないが、そうだからこそ世の中の矛盾を何とかしたいという気になる(あるいはそうした世の中で生きる救済を求める)ということかもしれない。

 最後の断章3では「神秘体験の謎」に迫ろうともしているが、これはそう簡単は解明できないだろうし、実際この断章でも解明できていない。

 この事件は自分とも無関係ではなかったが、それについては過去に何回か書いてきたの今回は省略。

目次
序章 円覚寺
第1章 犯罪の系譜
第2章 出動・緊急
第3章 被害
第4章 奇襲
第5章 死刑囚の母たち
第6章 出家
第7章 ケア
第8章 弁護士
第9章 松本サリン
第10章 坂本弁護士一家
断章
 1 もう一つのサリン時間
 2 地下鉄サリン麻原事件で争われたもの
 3 神秘体験の謎
あとがき
参考文献
文庫版へのあとがき

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2025年6月記

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