第二部−2− 地球の科学

第4章 地磁気(1)

目次
1. 磁石は北を指す
2. 地球は巨大な磁石である
3. 地磁気の成因は地球内部にある
4. 地磁気の変化
a. 日変化
b. 永年変化
用語と補足説明
この章の参考になるサイト

1. 磁石は北を指す

 磁石のN極は北を指す(指北性という)。中国では昔からこのことは知られていた。このことを利用して、つねに南を指す車(指南車)が作られたという話も伝わっている。中国では指南性というのかもしれない。もっとも指南車は、車に乗せた人形が歯車を利用してつねに南を指すような仕組みだったという説の方が強い。ただし、羅針盤の発明はやはり中国らしい(TDK「じしゃく忍法帳」第39回「羅針盤と磁気コンパス」の巻)。ただ、ヨーロッパでも羅針盤は独立に発明されたのかもしれない。

 では本当に磁石は北を指すのだろうか。じつは磁石が指す北は真北からは少しずれている。この真北からのずれを偏角という。例えば東京付近では、磁石が指す北は真北から約6°西にずれる。偏角は6°西偏である。この偏角は日本では北に行くほど大きくなり、南に行くほど小さくなる。偏角の場所ごとの値は、国土地理院発行の地形図に示されている。

偏角;京都大学大学院理学研究科付属地磁気世界資料解析センター(地磁気とは?)
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/poles/polesexp-j.html
国土地理院
(2008年12月1日現在、この図が見あたりません)


 また、磁石はその重心で支えても水平にはならない。しかし、ある角度で止まる。水平面からのずれの角度を伏角という。東京付近ではN極が約49°下を向く。つまり、伏角は49°である(S極が下を向く場合はマイナスとする)。伏角も、日本では北に行くほど大きくなる。このため、日本で使われている方位磁石の中には、わざとS極側におもりを付けていてバランスをとっているものがある(下写真参照)。

S極側に銅線を巻いてバランスをとっている。これをカウンターバランスという。この方位磁石は地質調査で使うクリノメーター、わざとE-Wの目盛りが逆についている。 伏角計。

※ 南半球での伏角の様子はこちらをクリック。高緯度での伏角はこちらをクリック

 磁石はその場所での地球の磁場の向きを向く。その場所での地球の磁場(強さと向き)を全磁力という。この全磁力と、真北、偏角、伏角の図を下に示す。また、日本の偏角・伏角の分布を下に示す。

日本の偏角(国土地理院:http://www.gsi.go.jp/common/000148084.pdf
日本の伏角(国土地理院:http://www.gsi.go.jp/common/000148085.pdf
日本の全磁力(国土地理院:http://www.gsi.go.jp/common/000148086.pdf

 

 なお、大西洋横断中のコロンブス(イタリア、1451年〜1506年)は偏角が場所により異なることを発見した。さらに世界中の偏角の分布を最初に明らかにしたのは、ニュートンの盟友ハリー(イギリス、1656年〜1743年、)である。

※ 偏角自体はコロンブス以前から知られていたようである。「磁力と重力の発見2」(山本義隆、みすず書房、2003年)による。

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2. 地球は大きな磁石である

 地球が大きな磁石であることを示したのは、エリザベス1世の侍医でもあったウィリアム・ギルバート(イギリス、1544年〜1603年)であった。それまでは磁石が示す指北性は、北極星が磁石をひっぱているというような解釈がなされていたのである。

 ギルバートは大きな球形磁石をつくり、その近くに小さな棒磁石を持っていくと、地球上での磁石と同じ振る舞いをすることを見つけたのだ(1600年)。大きく見れば磁石は北を指すのだが、地理的な極と磁極が少しずれているために磁石が指す北も真北から少しずれる(偏角が生ずる)こと。また、磁力線の向きに小さな磁石が並ぶので、磁極近づくほど小さな磁石の極は下を向く(伏角が大きくなる)ことなどが、下の図からわかる。


ギルバートの図 左右が南北、上下が赤道方向である。
http://geo.phys.uit.no/articl/roadto.html

 地球の磁極(magnetic pole)は、北極近くに(北極点ではない)北磁極(磁石の性質ではS極)、南極近くに(南極点ではない)南磁極(磁石の性質ではN極)がある。北磁極の上の地点では磁石のN極が真下を向き(伏角90°)、南磁極では磁石のS極が真下を向く(伏角-90°)ということになる。北磁極は1984年で北緯77.0°、西経102.3°、南磁極は1985年で南緯65.1°、東経140.0°にあった(「地球科学ハンドブック」(力武常次、聖文社、平成4年5月、ISBN4-7922-1332-0))。このように、北磁極と南磁極を結んでも地球の中心を通らない。

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3. 地磁気の成因は地球内部にある

 ギルバートの考えは、地磁気についての一つの可能性を実験的に示したものである。これを数学的に厳密に照明したのはガウス(ドイツ、1777年〜1855年)であった。ガウスは地磁気のデータから、地球の磁場の成因の99%は地球内部にあることを証明し、80%は双極子(N極とS極が一つずつ、つまり極が二つある棒磁石)で説明できる事を明らかにした。これは地球を遠くから見れば、地球の内部に双極子(棒磁石)が埋まっているのとほぼ同じに見えるということである。


京都大学大学院理学研究科付属地磁気世界資料解析センター
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/pdf/pamphlet/wdc_pamp.pdf

 この地球内部に埋まっていると考えることができる仮想的な双極子(棒磁石)の延長と、地表との交点を地磁気の極(geomagnetic pole)といい、そののうち北極近くにあるのが地磁気北極(磁石の性質としてはS極)、南極近くにあるのが地磁気南極である。この双極子(棒磁石)は地軸と約11.5°傾いている。

※ 地球磁場が双極子とすると、磁極を90°とする緯度(φ)と伏角(I)の関係は tanI = 2tanφの関係になる。

 北磁極(南磁極)や地磁気北極(地磁気南極)はどんどんその位置を変えている。

北磁極(緑色)と地磁気北極(赤)の移動 南磁極(緑色)と地磁気南極(青)の移動
京都大学大学院理学研究科付属地磁気世界資料解析センター(地磁気とは?)
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/poles/polesexp-j.html

地磁気北極
地磁気南極 磁北極 磁南極 双極子モーメント
1022Am2
緯度 経度 緯度 経度 緯度 経度 緯度 経度
1900 78.7N 68.8W 78.7S 111.2E 70.5N 96.2W 71.7S 148.3E 8.32
1905 78.7N 68.7W 78.7S 111.3E 70.7N 96.5W 71.5S 148.5E 8.30
1910 78.7N 68.7W 78.7S 111.3E 70.8N 96.7W 71.2S 148.6E 8.27
1915 78.6N 68.6W 78.6S 111.4E 71.0N 97.0W 70.8S 148.5E 8.24
1920 78.6N 68.4W 78.6S 111.6E 71.3N 97.4W 70.4S 148.2E 8.20
1925 78.6N 68.3W 78.6S 111.7E 71.8N 98.0W 70.0S 147.6E 8.16
1930 78.6N 68.3W 78.6S 111.7E 72.3N 98.7W 69.5S 146.8E 8.13
1935 78.6N 68.4W 78.6S 111.6E 72.8N 99.3W 69.1S 145.8E 8.11
1940 78.5N 68.5W 78.5S 111.5E 73.3N 99.9W 68.6S 144.6E 8.09
1945 78.5N 68.5W 78.5S 111.5E 73.9N 100.2W 68.2S 144.4E 8.08
1950 78.5N 68.8W 78.5S 111.2E 74.6N 100.9W 67.9S 143.5E 8.06
1955 78.5N 69.2W 78.5S 110.8E 75.2N 101.4W 67.2S 141.5E 8.05
1960 78.6N 69.5W 78.6S 110.5E 75.3N 101.0W 66.7S 140.2E 8.03
1965 78.6N 69.9W 78.6S 110.1E 75.6N 101.3W 66.3S 139.5E 8.00
1970 78.7N 70.2W 78.7S 109.8E 75.9N 101.0W 66.0S 139.4E 7.97
1975 78.8N 70.5W 78.8S 109.5E 76.2N 100.6W 65.7S 139.5E 7.94
1980 78.9N 70.8W 78.9S 109.2E 76.9N 101.7W 65.4S 139.3E 7.91
1985 79.0N 70.9W 79.0S 109.1E 77.4N 102.6W 65.1S 139.2E 7.87
1990 79.2N 71.1W 79.2S 108.9E 78.1N 103.7W 64.9S 138.9E 7.84
1995 79.4N 71.4W 79.4S 108.6E 79.0N 105.3W 64.8S 138.7E 7.81
2000 79.6N 71.6W 79.6S 108.4E 81.0N 109.6W 64.7S 138.3E 7.79
2005 79.8N 71.8W 79.8S 108.2E 83.2N 118.2W 64.5S 137.8E 7.77
2010 80.1N 72.2W 80.1S 107.8E 85.0N 132.8W 64.4S 137.3E 7.75
2015 80.4N 72.6W 80.4S 107.4E 86.3N 160.0W 64.3S 136.6E 7.72
2016 80.4N 72.6W 80.4S 107.4E 86.5N 167.8W 64.2S 136.4E 7.72
2017 80.5N 72.6W 80.5S 107.4E 86.6N 175.5W 64.2S 136.3E 7.72
2018 80.5N 72.7W 80.5S 107.3E 86.6N 176.9E 64.2S 136.2E 7.71
2019 80.6N 72.7W 80.6S 107.3E 86.6N 169.6E 64.1S 136.0E 7.71
2020 80.7N 72.7W 80.7S 107.3E 86.5N 162.9E 64.1S 135.9E 7.71
2021 80.7N 72.7W 80.7S 107.3E 86.4N 156.8E 64.0S 135.7E 7.71
2022 80.7N 72.7W 80.7S 107.3E 86.3N 151.3E 64.0S 135.5E 7.70
2023 80.8N 72.7W 80.8S 107.3E 86.1N 146.4E 63.9S 135.4E 7.70
2024 80.8N 72.6W 80.8S 107.4E 86.0N 142.0E 63.9S 135.2E 7.70
2025 80.9N 72.6W 80.9S 107.4E 85.8N 138.1E 63.9S 135.1E 7.70
京都大学大学院理学研究科付属地磁気世界資料解析センター(地磁気とは?)
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/poles/polesexp-j.html

 地磁気の成因の99%は地球内部にあるということは、1%は地球外にあるということでもある。その成因はおもに太陽の活動である。例えば太陽の活動が活発になると、太陽表面から荷電粒子が沢山飛び出てくる。これが地球の磁場に影響を与える。

 地球磁場の80%が双極子(棒磁石)で説明できるということは、残りは説明できないということでもある。この説明できないものとは、例えば双極子を考えただけよりは磁場の強い部分や弱い部分があるということである。これを非双極子部分という。この非双極子部分は目玉のように見える(下図)。この目玉はいっせいに年0.2°位(赤道で年速20km程度)ずつ西に移動している。これを非双極子部分の西方移動という。


地球磁場の非双極子部分:地球主磁場中の非双極子磁場の起源(東大地震研浜野洋三氏)
http://eri-ndc.eri.u-tokyo.ac.jp/jp/ohp/letter01/27.html

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4. 地磁気の変化

a.日変化

 太陽の活動が活発になると、太陽から飛び出してくる荷電粒子(陽子、ヘリウムの原子核、電子など電荷を持った粒子)が増える。これが地球に届くと、地球の電離層を流れる電流が変化する。この電流の変化に伴い、その電流によって生ずる磁場も変化し、そのため地球の磁場も変化する。この変化は大変に短い時間スケールの変化なので、地磁気の日変化という。この変化が激しいときは、磁気嵐という。


1993年4月3日〜5日(世界標準時),水沢測地観測所における地磁気変化例
国土地理院
(2008年12月1日現在、この図が見あたりません)

b.永年変化

 地磁気はもう少し長い時間の間にも変化をしている。上に書いた非双極子部分の西方移動もその一つである。また、偏角や伏角、それに全磁力も変化している。こうしたゆっくりとした変化を永年変化という。羅針盤を持って航海するヨーロッパ人が日本を訪れるようになって以降の日本のデータを見ても、わずか300年くらいで14°も変化していることがわかった。全磁力はここ数百年間くらい減少を続けている。この傾向がこのまま続くとあと1000年くらいで地球の磁場は消滅してしまうことになる。もちろん、本当にそうなるかは現在のところ予想することはできない。

 確かに永年変化は、日変化と比べれば大変にゆっくりとした変化には違いないが、ほかの地質現象、たとえば山ができたりとか、大陸が動いたりという現象と比べれば大変に速い変化である。こうしたことは、きっと地磁気の成因と関係があるに違いない。

地磁気成分の西方移動:京都大学大学院理学研究科付属地磁気世界資料解析センター
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/pdf/pamphlet/wdc_pamp.pdf
地磁気の永年変化(気象庁)
http://www.kakioka-jma.go.jp/knowledge/mg_bg.html
弱まっている全磁力(気象庁)
http://www.kakioka-jma.go.jp/knowledge/mg_bg.html

 

西向きの偏角が大きくなっている。ただし、2000年から2010年まではいったん停滞している。国土地理院:http://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/menu01_index.html

 

1970年〜2015年までの偏角の変化のgigアニメ。西日本は一貫して西向きに増大しているが、東日本では2000年〜2010年は停滞し、その後また増大している。
http://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/menu01_index.html

 

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用語と補足説明

指南車下の写真は歯車を利用した指南車。


指南車:豊田工業高専末松氏
http://www.toyota-ct.ac.jp/~jimu/syomu/suematsu/navigator/navigator.html

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ガウスガウス(ドイツ、1777年〜1855年)は数学史上の巨人である。子供のころから数学の才能を発揮した。有名な逸話としては、10歳のころ1から100までの等差数列の和(1+2+3+4+…+99+100)をすぐに求めた話が伝わっている。

ガウス
http://www-groups.dcs.st-and.ac.uk/~history/Mathematicians/Gauss.html

 17歳のころには、定規とコンパスだけでは正7角形が作図できないこと、逆に正17角形の作図方法を示した(他に正257角形、65537角形の作図方法も)。

 その後22歳のガウスは、「代数方程式は少なくとも1つの根を持つ」(代数学基本定理)を証明し、数学者としての地位を不動のものにした。また24歳の時、小惑星(ケレス)の軌道計算でヨーロッパ中に名声をとどろかせた。

 ガウスは30歳でゲッチンゲン大学数学科教授&天文台台長となり、終生その地位にあった。そして、整数論、だ円関数論、微分幾何学、複素数論、確率論などを研究した。

 ガウスは純粋数学ばかりではなく、上に書いたように天文学、さらには地球電磁気学などの研究も行った。一時、磁束密度の単位としてG(ガウス)という単位が用いられていたのは、この電磁気学上の功績による(現在はT(テスラ)という単位を使う)。ガウスは、実験・観測して得られた値をどのように処理すると信頼すべき結果を出すことができるのかという観点から、誤差論や最小二乗法も開発した。

 ガウスは完全主義者で、自分の研究が完全にならないと公表しないことを常としていた。だが、ガウスほどの天才ではないとはいえ、大勢の数学者の中にはガウスが未公表の研究を独自に行い、結果を出すものも出てくる。そんなときガウスは「そんなこと自分はもっと前から知っていた…。」などと嫌みを言ったり、無視したりした。だが、死後公開された日誌から、確かにガウスは彼らよりももっと前に、より完全な形で知っていたことが明らかになった。でも、これは一人の天才がなしえたことも、多くの人手によって50年遅れにはなってしまったが、またなしえることができるということでもある。

※ 参考文献:「異説数学者列伝」(森毅、蒼樹書房、1973年)。「Encarta 百科事典」(Microsoft社)。

双極子と単極子双極子(棒磁石)をいくら細かく分けても、それぞれの破片は小さな双極子になっている。つまり、N極だけとか、S極だけという磁石(極が一つしかない単極子(モノポール))は作ることができない。これは磁気と関係が深い電気において、プラスの電荷も持った最小単位(クォークをのぞく)の粒子である陽子、マイナスの電荷を持った最小単位の粒子である電子があることとは大きな違いである。

 だが素粒子の世界では単極子は存在すると予想する人も多く、発見の努力が続けられている。

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この章の参考となるサイト

地磁気とは? : 京都大学大学院理学研究科地磁気世界資料解析センター

地磁気ってなに? : 国土地理院地磁気測量ホームページ

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