第二部−3− 大気と海の科学

第17章 海水中の塩分とその起源(1)

目次
1. 海水中の塩分
2. 溶存気体
3. 海塩粒子
用語と補足説明
このページの参考となるサイト

戻る  このページのトップへ  目次へ  home

1.海水中の塩分

 海水は自然界に存在している元素92種類のすべてを溶かし込んでいる。代表的なものは下の通り。なお、海水中の塩分についてはこちらも参照。海水を煮詰めると多いイオン、すなわちNa+とCl-が結びついて食塩(NaCl)が一番多く析出する。だが、食塩そのものが海水に溶け込んだわけではない。海水は溶け込んでいる塩分のためにpH8程度の弱いアルカリ性になっている。

イオン 海水中(g/kg)
ナトリウム(Na+ 10.766
マグネシウム(Mg2+ 1.293
カルシウム(Ca2+ 0.413
カリウム(K+ 0.403
臭素(Br- 0.0674
炭酸(CO32- 0.142
硫酸(SO42- 2.708
塩素(Cl- 19.353

海上保安庁海洋情報部を編集:http://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/SODAN/faq/why_salty.html

 海水中の塩分の量は上の表のように、海水1kg中にとけ込んでいる物質の質量(g)の割合を千分率(‰、パーミル)で表すことが多い。これを絶対塩分という。ただし、実際には塩分量をイオンや元素ごとに測定するのは大変である。そこで塩分濃度が違っても、塩分の組成はほぼ一定であるというクヌーセン(1901年)の研究成果をもとに、塩素イオンの量だけを測って推定することが多い。海水中の塩分濃度はだいたい血液(体液)の塩分濃度の3倍程度ある。

 さらに現在では海水の電気伝導度を測定して迅速に塩分量を推定することが多い。電気伝導度から求める塩分量を実用塩分(無次元で単位なし)といい、今日では絶対塩分に取って代わっている。昔35‰と表したものが、たんに35と表記する。

 海水の塩分は、降水、河川水の流入、氷山の融解によって薄まり、海水の蒸発、海氷の生成によって濃くなる。赤道付近では熱帯収束帯のために降水量が多く、海水の塩分濃度が低い(太平洋34、大西洋35程度)。中緯度高圧帯付近(南北の回帰線=緯度23.5°付近)では降雨量が少なく、塩分濃度が高い(北太平洋35.5、南太平洋36.5、南北の大西洋37.3、インド洋36)。さらに高緯度では、再び降雨量が蒸発量を上回るために塩分濃度が低くなる(南極のまわり34)。

 極端なところでは紅海は40.6、地中海は38.5と塩分濃度が高い。このために、インド洋や大西洋は太平洋より塩分濃度が高い。

 塩分濃度の垂直分布は、塩分濃度の高い、さらに水温の低い海水が潜り込むことによって生ずる。これについては海水の大循環を参照。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home

2.溶存気体

 気体は水温が低く、塩分濃度が低いほど海水に溶け込む量が多くなる。

 酸素は、塩分が35であれば、海水1L中に0℃で8.05mL、20℃で5.17mLが溶け込むことになる。海水の表面近くでは、海水が波打ち泡立っているときはだいたいこの量がとけ込んでいる。植物プランクトンが酸素をたくさん放出しているときはこれ以上になっていることがある(過飽和の状態)。光が届かない深い海では溶け込んでいる酸素の量は少なくなり、沈んでくる有機物の分解量が多い東部太平洋の水深100m〜700m程度の深さではほとんど酸素がないところもある。極端なときは硫化水素を生じ、黒っぽくなることもある。

 溶存酸素が少ないところでは脱硫菌(NO3-の酸素を使って呼吸し、硝酸を窒素ガスに変える)が、河川が海に運んでくる窒素化合物(年8000万トン)を分解して窒素を大気に戻す役割を果たしている。もしこの脱硫菌の働きがないと、5000年で大気中の窒素がなくなってしまうという。

 二酸化炭素は気体(CO2)以外にも、炭酸イオン(CO32-)としても海水に溶け込んでいる。海水は二酸化炭素を大量に溶かし込むことができるので、大気中の二酸化炭素濃度の調節に大きな役割を果たしている。これについてはこちらを参照

 酸素と二酸化炭素の大気−海洋(海水)−海底間の出入りの様子は下の図を参照。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home

3.海塩粒子

 海面で波が崩れるときに、たくさんの気泡ができる。その気泡が破裂するときに細かい水滴(微水滴)が空気中に放出され、それが蒸発すると、塩分が空気中に残ることになる。これが海塩粒子である。

 この海塩粒子は大気の乱流や対流によって対流圏全体に分布する。そして一部は凝結核となり、雲の発生に重要な役割を果たす。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home


用語と補足説明

体液の塩分濃度の調節魚類の血液(体液)の塩分濃度も陸上動物の血液(体液)の塩分濃度と大きな差はない。すわなち、海水魚は自分の体液よりも濃い海水中で生活し、淡水魚は自分の体液よりも薄い淡水中で生活する。そのため浸透圧の関係で、海水魚は体液が外に抜け、淡水魚はまわりの水が体内に入り込む。だから海水魚は大量の水を飲み、エラから塩分を排出するしくみがある。逆に淡水魚は多量の尿を排出し、塩分は尿細管で回収する。サケやウナギ、あるいはアユといった成長の段階で海水と淡水を生活の場を変える魚は、その際にごく短時間でこうした代謝のしくみを変えることができる。

 海水中の塩分は血液(体液)よりも濃いので、ヒトが海水を飲むと血液(体液)の塩分濃度が高くなり、ますます喉が渇くことになる。だが、海鳥やウミガメは海水を飲んで水分を補給することができる。これは目と鼻の間にある涙塩腺という器官で、余分の塩分を排出することできるからである。産卵のために上陸したウミガメが産卵時にあたかも産みの苦しみで涙を流しているように見えるが、じつは涙塩腺から塩分を排出しているのである。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home


このページの参考となるサイト 

戻る  このページのトップへ 目次へ  home