4 原子力  

 化学エネルギーで生命を維持しているわれわれ人類が(地球型生物が)、本当に核エネルギーを制御できるであろうか。 

4・2 ウランとプルトニウム 

(1) ウラン

  自然界のウランは、おもにウラン235とウラン238という2種の同位体(原子核の中の中性子の数が違うだけで化学的な性質はまったく同じもの)として存在する。そしてその割合は、地球上のどの場所からとってきても、さらに太陽系のどの場所のウランでも、1:137.8(0.7%:99.3%)になっている。下の元素の起源を参照。

  そして、核分裂の連鎖反応を起こすのは、自然界にはわずか0.7%しかないウラン235の方である。これでは濃度が低すぎるので、ふつうはウラン235の割合を高めて(濃縮して)利用する。軍事的な目的では、ウラン235の割合がほぼ100%近くまでになるまで濃縮するが、発電用では3%程度にまで濃縮したものを使う。ウラン235の濃度を高めたものを濃縮ウランという。  

 ただし、ウラン235とウラン238とでは化学的な性質はまったく同じなので、ウラン235の濃縮は、ウラン238とのごくわずかな質量の違い(235:238の違い)だけを頼りに行う。ガス拡散法とか遠心分離法などがあるが、実際には非常に難しい技術で、かつ大量のエネルギーが必要である。軍事にも密接にからんでいるので、各国において重要な機密事項になっている。公開が原則の日本の核だが、このウランの濃縮工場は公開されていない。

  もっとも、日本の発電用濃縮ウランは、日本の工場だけでは各発電所に供給できるだけの量を生産できない。そこで、ふうつはまずウラン鉱石を諸外国から買い付け、それをアメリカに送って濃縮してもらい、その濃縮ウランを購入している。もともとウラン鉱石は日本では実質的にはとれない。(しかしなぜか、国の統計では「準国産エネルギー」となっている。3・4参照)。 

※ 2007年現在、日本のウラン濃縮工場(青森県六ヶ所村)の濃縮ウランの製造量は、年間100万kW級の軽水炉の燃料として約5基分しかない(トラブルのため公称能力の1/10程度の生産量)。つまりほとんどを輸入に頼っている。ウランを濃縮するということは、残りの天然ウラン中のウラン235の濃度が低くなっているということである。この残りを劣化ウラン(ウラン235の割合は0.25%程度)という。100万kW級の軽水炉1基が1年間で使う濃縮ウランを製造するためには、天然ウランが約160トン必要で、それから出来る濃縮ウランは約25トン、残りの135トンは劣化ウランとなる。つまり、六ヶ所村のウラン濃縮工場からは、年間約600トンの劣化ウランが発生することになる。その使い道は未定であるが、MOX燃料に混ぜるということも検討されている。

※ 東芝は濃縮ウランをアメリカのウラン濃縮会社(世界第2位のユーゼック社)に出資する(2010年5月)ことで、海外向け原子炉の燃料を確保しようとしている。

補足1:半減期

 ウランなどの放射性物質の放射能(放射能を持っている元素の量)は、一定の時間ごとにその強さ(その量)が半減する。その時間を半減期という。図4-2のように半減期(図ではt年)ごとに1/2になる。つまり、半減期が1年のものがあったとすると、1年後には最初の1/2、2年後には最初の1/4、3年後には最初の1/8、4年後には最初の1/16という具合である。

  この半減期は、熱・圧力、あるいはいかなる化学反応でも変えることができない。逆にこれを利用して、放射性同位元素を地質時代の時計とすることができる。  ちなみに、ウラン235の半減期は約7.0億年、ウラン238の半減期は約45億年である。地球の年齢は約45億年と考えられているので、地球が誕生したころのウラン238の量は、ちょうど今の倍あったことになる。

 なお、半減期についてはこちらも参照


図4-2 半減期

放射性同位元素 半減期 放出するおもな放射線
人工の放射性物質
(原子炉内で自然にできてしまう)
ヨウ素131 8.0日 ベータ線
コバルト60 5.3年 ガンマ線
セシウム137 30年
プルトニウム239 24000年 アルファ線
自然界の放射性物質 ラドン222 3.8日
ラジウム226 1600年
ウラン238 45億年

 表 おもな放射性同位元素とその半減期(放射線についてはこちらを参照

補足2:元素の起源

  鉄よりも重い元素は、重い恒星の一生の最後を飾る超新星爆発によって生成される。ウラン235もウラン238も、その後一定の割合(半減期)で減っていく。ウラン235とウラン238の比が、地球上、いや太陽系上で一定だということから、太陽系の元素の起源となった超新星爆発は単一(あるいは同時期の複数)だということが推定できる。

  また、もし理論的に元素生成時のウランの同位体の比が計算できるなら、その超新星爆発が何年前に起きたものかもわかる。例えばウラン235:ウラン238の生成時の割合が0.6:1(過去に遡ると、半減期の短いウラン235の割合は相対的に増加する)だったとすると、太陽系の元素をつくった超新星爆発は約54億年前に起きたことになる。

  ともかく、地球上の物質は一度はどこかの恒星の物質だったわけで、われわれの体もかつては恒星・超新星として光り輝いていたことになる。

 

 補足3 天然原子炉

 過去に遡ると、核分裂の連鎖反応を起こすウラン235の割合がいまよりも大きくなる。つまり、ウラン235の濃度が高かった大昔、流水によって密度の大きいウランが集まった場所ができ、さらにそこに水が存在していると臨界量(自然に核分裂の連鎖反応が始まる最低量)が小さくなることも加わり、ウラン235が臨界に達し、自然に核分裂の連鎖反応が起きた可能性がある。  

 このことを最初に指摘したのは日本の黒田和夫で、1956年のことである。そして、実際に天然原子炉の跡が発見されたのは、1972年、アフリカのオクロ鉱山(ガボン共和国)であった。ここで採掘されたウランは、当然ウラン235の濃度が通常の0.7%よりかなり低く、0.4%程度のものもあった。

  天然原子炉が運転していたのは約17億年前(20億年前という説もある)、それは60万年間ほど続き、合計で大きな発電用原子炉の4年分の発電量に相当するエネルギーが放出されたという(数世帯のエネルギーをまかなえる発電が60万年間続いたことになる)。 


図4-3 オクロの天然原子炉:(株)三菱重工業 原子炉ゾーンの一部を保存している。
http://www.mhi.co.jp/atom/46okunen.htm

 

 (2) プルトニウム

  プルトニウムは自然界には存在しない元素である。核分裂の連鎖反応を起こさないウラン238の原子核に中性子をぶつけると、中性子が原子核に吸収され、プルトニウム239になる。すなわち、プルトニウム239は原子炉(中性子が飛び交っているし、燃料の大部分はウラン238)さえあれば簡単につくることができる、というより、いやでもできてしまう。こちらの図を参照

  このプルトニウム239は核分裂の連鎖反応を起こす。そして、その名前「地獄の神」(プルートー)のとおり大変な物質である。まず強い放射能を持っていること(半減期は24000年)、そして化学的にも非常に毒性が強いこと(ダイオキシンと並び、人類が創り出してしまった最悪の物質の一つ(5・1の(3)参照)、また連鎖反応を起こすので原爆の材料にもなる(核拡散)こと、という三つの問題がある。

  そして、プルトニウムはウランとは違う元素なので、化学的に分離・濃縮が可能である。つまり、原子炉さえあればどの国、どの組織でもプルトニウム239を材料とした原爆ならば製造できてしまう。強い放射能、強い毒性のため個人レベルでは無理であろうが。

補足:原爆

  原爆(原子爆弾)は、ウラン235やプルトニウム239を、臨界量よりごく小さいブロックにわけておき、火薬の力で一瞬にして圧縮、臨界量を超えさせて爆発させる。プルトニウムの生産は原子炉さえあればできるし、濃縮も化学的に可能なので、プルトニウムを使った原爆は、技術的に難しいウラン235の濃縮が必要なウランを使った原爆より容易にできる。実際、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国以外の国の原爆は、すべてプルトニウムを使っている。ただし、上の5カ国以外にも、ウラン235で原爆を作ったといっている国もある。

  ちなみに、日本に落とされた原爆は両方のタイプで、広島に落とされたもの(通称リトルボーイ)はウラン235を使ったもの、長崎に落とされたもの(通称ファットマン)はプルトニウム239を使ったものである。なお、下の写真説明の“キロトン”は、原爆の破壊力を通常火薬(TNT火薬)に換算した値。

リトルボーイ(長さ3m、直径0.71m、重さ4400kg、、15キロトン原爆)
http://www.atomicarchive.com/Photos/LBFM/image1.shtml
ファットマン(長さ3.25m、直径1.5m、重さ4656kg、21キロトン原爆)
http://www.atomicarchive.com/Photos/LBFM/image4.shtml

 

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