第3章 地球の構造(1)
1. 地球の構造-1-
目次 | |
a. | モホロビチッチの発見(走時曲線の折れ曲がり) |
b. | モホロビチッチの解釈 |
c. | 地殻とマントル |
用語と補足説明 | |
付録:モホ不連続面までの深さを求める |
1900代の初めころ、東ヨーロッパの地震を研究していたモホロビチッチは奇妙なことに気が付いた。地震が起きてから観測点に届くまでの時間(走時)は、震源からの距離に比例すると思われていたのに、遠い地震は予想より早い時間で届いてしまうのだ。
下の図で、震源から等間隔で並んだ観測点A〜Gで地震を観測すると、Dまでは震源までの距離と、走時が比例関係になっている。しかし、それより遠いE以降では、比例関係が成り立っていない。比例関係から予想される時刻より早く揺れが始まる(地震波が届いている)。つまり、走時曲線(ゆれ初めの時刻を結んだ線)はDのところで折れ曲がることになる。
モホロビチッチはこうしたこと発見した。
モホロビチッチは、地球内部は均質、あるいは深さとともに連続的に密度が増す(地震波速度が速くなる)のではなく、ある深さで不連続的に変化する(地震波速度が急に速くなる)のではないかと考えた。つまり下の図のように、ある深さで地震波の伝わる速さがV1からV2(V1<V2)に変化すると考えた。
震源から出た地震波はまず同じ速さV1で、つまり震源を中心として(断面で考えると)同心円上に四方八方に広がっていく。しかし、地震波の伝わる速さが急に変わる面(不連続面)に達すると、地震波はそれより深いところとはその境界面(不連続面)ではより速いV2という速さで伝わることができる。
そして、地震波はその境界のあらゆる所から、再び地表に向けて出てくる(図にはかいていないが本当はより深い向きにも出ている)。この地震波は再び遅いV1というさである。
地表で、どのような経路で伝わってきた地震波が最初に届くかを考える。震源からの距離が近いうちは、震源から地表をまっすぐに伝わってきた波(直接波)の方が速く届くのは明らかである(下図(1))。しかし、震源からの距離が大きくなると、下を回ってきた波(屈折波)の方が、距離的には遠回りだが、不連続面をより速い速さV2で伝わることができるので、時間的には近道になる。つまり、不連続面を回ってきた屈折波の方が早く届くことになる(下図(3))。ちょうど、高速道路を利用するときに、あまり近い目的地だと高速道路を使う意味はないが、遠くに行くときはIC(インターチェンジ)まで行って、そこからまた目的地に向かうために距離的には遠くなっても、目的地には早く着くことができるのと同じことである。
そのちょうど境目、つまり直接波と屈折波が同時に到着する点がある(上図(2))。これが上の走時曲線のグラフでの観測点Dである。D点より震源に近い観測点では直接波が早く届き、D点より遠い観測点では屈折波が早く届くのである。こうして走時曲線が折れ曲がる。
モホロビチッチは、波の屈折の法則(スネルの法則)から不連続面までの深さを求めた。
c. 地殻とマントル
モホロビチッチが発見した不連続面は、東ヨーロッパだけではなく、地球全体にあることがわかった。そこで、モホロビチッチが発見した不連続面をモホロビチッチ不連続面(モホ不連続面、モホ面)といい、モホ不連続面より上の部分を地殻、下をマントルという。
その後、モホ不連続面は大陸では深く(平均35km程度)、海洋では浅い(海底から5km〜7km程度、海の平均の深さは4km)であることもわかった。さらに、大陸ではモホ不連続面の上にもう一つ不連続面がある(走時曲線が2回折れ曲がる)こともわかった。この不連続面をコンラッド面ということがある。つまり、大陸の地殻はコンラッド面によって、上層部と下層部に別れる。
さらに、地殻上層部は花こう岩質(花こう岩そのものということではない)の岩石からなり、密度は2.7×103kg/m3(2.7g/cm3)程度、地殻下層部は玄武岩質岩石からなり、密度は3.0×103kg/m3(3.0g/cm3)程度であることもわかった。モホ不連続面より下のマントルは、かんらん岩質の岩石で、モホ面の近くでは密度は3.3×103kg/m3(3.3g/cm3)、深くなるとこの密度はさらに高くなる。
上の図からもわかるように、地球表面の低いところに水がたまったところが海という単純なものではなく、大陸と海洋では地殻の構造・厚さが異なっている。すなわち海洋には地殻上層部(コンラッド面)がなく、いきなり地殻下層部になる(実際はその上にプランクトンの遺骸などの堆積物が積もっている)。
また当然ではあるが、上の地殻上層部の密度が一番小さく、深い部分を形成している岩石ほど密度が高くなる。
なお、オフィオライトという岩体ではこのモホ不連続面が地表で見られることがある。これについてはこちらを参照。
モホロビチッチ:モホロビチッチ(1857年〜1936年)はセルビア・モンテネグロ(当時はユーゴスラビア)の地震学者。
http://www.seismosoc.org/publications/SRL/SRL_78/srl_78-6_hs.html
波の屈折の法則:不連続面を波が通過する場合そこで屈折する。そのとき境界面より上を伝わる波の速さV1と、境界面より下を伝わる波の速さV2(V1<V2)と、波が不連続面に入る角度(入射角、i1)と、境界面から出ていく角度(i2)には、下図のような関係がある。これが波の屈折の法則(スネルの法則)である。なお、sin、cos、tanなどは三角比と三角関数のページを参照。
入射角がある程度大きくなると、波は不連続面より下には入っていけず、全反射してしまう。ちょうど波が不連続面より下に入っていける角度と、全反射してしまう角度の間の角度(図のi0)で入った波は、不連続面を伝わる波となる。この角度(i0)を臨界角という。
臨界角(i0)のsinは不連続面の上下を伝わる波の速さV1とV2を使って、sini0=V1/V2と表わすことができる。これより、cosi0、tani0も求めることができる(下参照)。tanはとりあえず有理化しないでおいておく。
不連続面までの深さ:上のスネルの法則を用いると、不連続面までの深さ(水平2層構造)を求めることができる。まず、地震の観測から求まるものは、震源(地表にあるとする)から走時曲線が折れ曲がる観測点までの距離(x(km)、直接波と屈折波が同時に届く距離)と、不連続面より上を伝わる地震波の速さ(V1(km/s))、不連続面より下を伝わる地震波の速さ(V2(km/s))である。地震波の伝わる速さは、走時曲線の傾き(時間軸が縦軸なので正確にはこの逆数)からわかる。この3つの値から、不連続面までの深さ(d(km))を求めるのである。
結論は となる。
この式の求め方を以下に示す。下の図で直接波はF→PをV1という速さで伝わり、屈折波はF→A→B→Fの経路のうち、FAとBPはV1という速さ、不連続面上のABだけV2という速さで伝わる。直接波、屈折波が震源(F)から観測点(P)に要する時間を求めて、それが等しいということから、不連続面までの深さ(d)を求める。なお、sin、cos、tanなどは三角比と三角関数のページを参照。
上の式を使って、実際にモホ不連続面までの深さを求めたい人はこちらをクリック。