第二部−2− 地球の科学

第1章 地震

この章の参考となるサイト
日本地震学会Web版「なゐふる文庫
地震調査研究推進本部「日本の地震活動

1. 地震の観測

目次
a. 地震計
b. 地震のゆれと地震の波
c. 震源と震央
d. 初期微動継続時間と震源までの距離
用語と補足説明

a.地震計

 地震とは地面がゆれる現象である。ゆれる地面に設置した地震計で、その地面のゆれを正確に観測・記録するのは非常に難しい。原理は空間に(なるべく)動かない点(不動点)をつくり、その不動点に対する地面のゆれを記録する。しかし、完全な不動点を作ることが難しいのである。

 よく利用されるのは、横ゆれ(水平動)に対しては振り子、縦ゆれ(上下動)に対してはばねを利用したものである。振り子を左右方向に振ったり、ばねを上下方向に動かしたりするとき、それを素早くやればやるほど、振り子やばね(のおもり)はあまり動かなくなる。こうした性質を利用するのである。

 もう少し詳しく書くと、振り子はその長さによって決まるゆれる周期を持っているし、ばねはその堅さ(伸び縮みにくさ)で決まるゆれる周期を持っている。この周期が地震のときに地面がゆれる周期より長いと(地面の方が速くゆれると)、不動点として使うことができる。

 では、地震のとき、地面はどのくらいの周期でゆれるのだろう。これはその地震の規模(マグニチュード)や地盤の性質によって異なる。しかし、大地震になると数十秒以上の周期を持ったゆれもある。だから、地震計はできるだけ長い周期の振り子やばね、できれば周期が数十秒以上のものを使う必要がある。ばねや振り子のゆれる周期と、地面がゆれる周期が近いと共振してしまうので、本当は数十秒の周期のものでは足りない。

 振り子のゆれる周期(T(秒))は、振り子の長さl(m)、重力加速度(m・s-2)、円周率をπとすると

      

となる。重力加速度は地球上ではほぼ一定の9.8m・s-2であるので、上の式は振り子の周期は、振り子の長さの平方根に比例するという意味になる。だから、振り子の長さを4倍にして周期が2倍、9倍にして3倍、100倍にして10倍というようにしかゆれる周期は大きくなってこない。例えば振り子の長さを9.8mとすると、周期は2π≒6.3秒でしかない。これでは地震計に使うのには短すぎる。だが、その周期の10倍、周期63秒の振り子を作ろうとすると、振り子の長さを100倍の980mにしなくてはならない。これは現実的な長さではない。

 実際には振り子の揺れる面を水平面に近くした水平振り子や、おもりを上にした倒立振り子などを使って、コンパクトに作る工夫がなされている。

 ばねの場合も同じである。ばねのゆれる周期(T(秒))は、ばね定数k、おもりの質量m(kg)、円周率πとすると、振り子の周期と大変に似た式になる。下の式の意味は、ばねの周期はおもりの質量の平方根に比例して、ばね定数の平方根に反比例する、ということである。

      

 ばね定数kは、ばねに加えた力fと、ばねの伸び(縮み)xとの間に成り立つ f=kx(フックの法則) のkである。つまりkが小さいほど、同じ力に対しての伸びは大きくなる。つまりkが小さいほど弱いばねということになる。

 だから、ばねのゆれる周期を長くするには、できるだけ大きな質量のおもりを、できるだけ弱いばねにつるせばよいことがわかる。だが、実際には弱いばねに大きな質量のおもりをつるせば、ばねはすぐに伸びきってしまう。周期の長いばねを作ることは難しい。

 以上のように、完全な不動点を作ることは難しいが、振り子を利用して水平方向のゆれを記録する地震計を2台(東西方向と南北方向)、ばねを利用して垂直方向の揺れを記録する1台の3台をセットで用いれば、地面のゆれをきちんと記録できることになる。

 現在では地面のゆれを電流に変える電磁式地震計が主流である。電流にすれば、増幅も簡単だし、それ以上に地震のデータを直ちに中央(気象庁など)に送ることもできる。下の図を見てもわかるように、原理はおもりの部分にコイルを巻いて、まわりに磁石を置いておけば、地震のときにおもりは動かず、まわりの磁石が動くので、電磁誘導によって電流が生ずるのである。この電流を取り出せばよい。

電磁式水平動地震計
国立科学博物館:http://research.kahaku.go.jp/rikou/namazu/02keiki/a/Cur_H.jpg
電磁式上下動地震計
国立科学博物館:http://research.kahaku.go.jp/rikou/namazu/02keiki/a/Cur_V.jpg
水平動地震計の原理
国立科学博物館:http://research.kahaku.go.jp/rikou/namazu/02keiki/mov/SHori.mov
上下動地震計の原理
国立科学博物館:http://research.kahaku.go.jp/rikou/namazu/02keiki/mov/SVert.mov

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b. 地震のゆれと地震の波

 地震のゆれは、まずガタガタと細かくゆれ、ついでグラグラを大きくゆれる。このガタガタのゆれを初期微動といい、グラグラのゆれを主要動という。最初の初期微動(ガタガタのゆれ)はP波(Primary Wave=最初に届く波)という波が届いたためのゆれで、次の主要動(グラグラのゆれ)はS波(Secondary Wave=2番目に届く波)という波が届いたためのゆれである。

※ S波が来たらそこでP波が終わるということはないので、主要動にはP波のゆれも混じっている。

初期微動と主要動(比較的震源が近い地震の記録):沖縄気象台
http://www.okinawa-jma.go.jp/ishigaki/school/200301/jisin01.htm

 この二つの波のうち、P波は、波の振動方向と進行方向が平行な縦波と呼ばれるものである。縦波は物質の粗密(疎密)の状態を伝える波であるので、粗密波(疎密波)とも呼ばれる。音波も縦波である。

 S波は、波の振動方向と進行方向が垂直な横波と呼ばれるものである。横波は物質のねじれの状態を伝える波であるので、ねじれ波とも呼ばれる。ねじれ波であるS波は、ねじれの状態がそもそも存在しない液体・気体中を伝わることはない

 P波の方がS波より伝わる速さが速い(約1.7倍程度)。また、地球内部を伝わる地震波は、堅い部分ほど速く伝わり、柔らかい部分ほど伝わる速さは遅い。言葉を変えると、冷たい部分ほど速く伝わり、暖かい部分ほど遅く伝わる。

 P波の方がS波よりも速いことを利用した「緊急地震速報」についてはこちらを参照。

 縦波と縦ゆれ(上下動)、横波と横ゆれ(水平動)の関係については下を参照

縦波(P波)と横波(S波):防災科学技術研究所
http://www.hinet.bosai.go.jp/about_earthquake/PNG/fig3.1.png

P波(上)とS波(下)の動き:「地震学入門」(2006年1月現在リンク先が見あたりません)
http://plaza22.mbn.or.jp/~islay/seismology/index.html
http://plaza22.mbn.or.jp/~islay/seismology/P_motion.htm
http://plaza22.mbn.or.jp/~islay/seismology/S_motion.htm

 遠い地震ではガタガタ(P波)に続くグラグラ(S波)のあとに、ユラユラというゆれを感じることがある。これは、表面波という波が届いたことを示す。表面波は文字通り物質の表面(近く)のみを伝わる波である。だから、地球内部のあらゆる方向に伝わっていくP波・S波は、震源からの距離とともに大きく減衰していくが(おおざっぱにいって震源からの距離の2乗に反比例して弱くなる)、表面波は地球の表面(近く)しか伝わらないので、震源からの距離が大きくなってもあまり減衰しない(震源からの距離に反比例して弱くなる)。このため、震源から遠い地震では表面波が目立つようになる。逆に、グラグラやガタガタの波よりも、ユラユラの波の方を強く感じたならば、震源が遠い地震であると判断できる。

兵庫県南部地震(1995年)をパキスタンで観測した記録(PP波、SS波などについては補足参照)。表面波が目立っていることがわかる。もっともこれだけ遠い地震だと、兵庫県南部地震のような大きな地震でも、地震計だけにしかゆれを感じない(人体には感じない)。
日本地震学会広報誌「Web版bなゐふる0号」:http://www.zisin.jp/pdf/nf-vol0.pdf

 なお、波の一般的な解説はこちらを参照

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c.震源と震央

 地下でゆれが起こり始めたところを震源といい、その真上の地表の地点を震央という。実際には、地震の原因となった地下の岩盤の破壊領域(断層)は広がりを持っているので、それを震源域という。詳しくは、4.地震とは何かのa.地震とは何か(弾性反発説)を参照。


震源と震央:地震調査研究推進本部
http://www.jishin.go.jp/main/pamphlet/wakaru_qa/wakaru_qa5.pdf

 

d.初期微動継続時間と震源までの距離

 P波の方がS波よりも伝わる速さが速い。だから、P波が来てからS波が来るまである程度の時間がかかる。この時間を初期微動継続時間、あるいはS−P時間(P−S時間)という。震源までの距離が遠くなれば、この初期微動継続時間は長くなる。

初期微動と主要動:防災科学技術研究所
http://www.hinet.bosai.go.jp/about_earthquake/PNG/fig3.2.png

 ここで、震源が観測点にかなり近い、つまり震源から観測点までのP波やS波の速さを一定と見なせる程度の距離で考える。初期微動継続時間t(秒)、震源までの距離X(km)、P波の伝わる速さをVp(km・s-1)、S波の伝わる速さをVs(km・s-1)とする。

 P波は震源から観測点まで =

 S波は震源から観測点まで =

 だから、初期微動継続時間  

 結局、震源までの距離は   

 このように、P波の伝わる速さをVp(km・s-1)、S波の伝わる速さをVs(km・s-1)が一定なら、この式は震源までの距離は、初期微動継続時間(S-P時間)に比例することになる。

 この式を求めたのは、東大地震学教授であった大森房吉(1868年〜1923年)なので、大森公式と呼ばれている。関東大地震(1923年9月1日の正午ころ)が起きたとき、大森房吉はオーストラリアに出張中であり、地震学教室を預かっていたのは、当時助教授の今村明恒(1870年〜1948年)であった。彼は自室で冷静に初期微動継続時間を計り、震源までのおおよその距離を求めたという。

 この大森公式は、上に書いたように震源から観測点までの地震波の速さがほぼ一定と見なせるようなところでないと使えない。

 ともかく、最低3つの観測点から震源までの距離がわかれば、震源の位置を決定することができる。

震源の決定、A、B、Cの各観測点から震源までの距離がそれぞれ、rA、rB、rCとわかったとき、各観測点からそれぞれを半径とする円を描き、その共通弦の交点(O)が震央になる。震源の深さはOからある弦に垂線を引いたとき、その垂線の長さになる。これは右のような立体で考えるとわかる。rA、rB、rCは本当は各観測点を中心とする球の半径である。つまり、震源はそれぞれを半径とする球面(半球面)上のどこかにあることになる。震央がわかれば、その震央から球面に垂線をおろせば、それが震源までの深さになる。
防災科学技術研究所:http://www.hinet.bosai.go.jp/about_earthquake/PNG/fig3.3.png

 気象庁や大学の研究機関が震源までの距離を求めるときには、別な方法を使っている。具体的には、まず仮の震源の位置をおおざっぱに決め(どの観測地点で一番早くゆれを感じたかなどで)、あらかじめデータとして持っている日本の地下の岩石中を伝わる地震波速度分布と、それによって決まるその仮の震源から全国の観測所に届く波が要する時間を計算し、実際の観測データと比較する。当然ふつうは一致しないので、その差を考慮して次の仮の震源を決め、その次の仮の位置から全国の観測所に届く波が要する時間をまた計算し、その仮の位置から…ということを繰り返して、もっとも観測データに合う位置(誤差が小さい地点)を決めるのである。まさに、コンピュータに向いている作業である。

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用語と補足説明

マグニチュード:地震の規模を表わす。詳しくはこちらを参照

フックの法則:ばねに加えた力とばねの伸び(縮み)が比例するという法則。アイザック・ニュートン(イギリス、1642年〜1727年)のライバルであったロバート・フック(イギリス、1635年〜1703年)が発表した。

電磁誘導:コイルのまわりの磁界(磁場)が変化すると、コイルに電流が生ずる。詳しくはこちらを参照

光は横波の性質を持つが、液体・気体中も伝わる。そればかりか真空中も伝わる。これは例外。

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縦波・横波と縦ゆれ・横ゆれ縦波・横波は波の振動方向と進行方向の関係で決まる波本来の性質の表現であり、縦ゆれ(上下動)・横ゆれ(水平動)は、水平面(鉛直方向)を基準にした地面のゆれ方、つまりわれわれを基準にした地面のゆれ方である。だから、下図(上)のように縦波であるP波でも横ゆれ(水平動)になることがあるし、下図(下右)のように横波であるS波でも縦ゆれ(上下動)になることもある。ただし、地震の波は下からやってくることが多いので、実際にはP波は縦ゆれ、S波は横ゆれとして感じることが多い。

縦波でも横ゆれ(水平動)、横波でも縦ゆれ:強震ネットワーク
http://www.k-net.bosai.go.jp/k-net/gk/publication/Sect-1/Fig4.2.1-1.JPG

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PP波やSS波など図を見てもわかるように、地震波はいろいろな経路を伝わっていく。このうち、PP波・SS波は一度地表で反射して、観測所まで届いたP波やS波、SSS波は二度地表で反射して観測点まで届いた波である。

兵庫県南部地震(1995年)をパキスタンで観測
日本地震学会広報誌「Web版なゐふる0号」:http://wwwsoc.nii.ac.jp/ssj/publications/NAIFURU/vol0/v0p2.htm

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表面波風によって起こる水面に生じている波も表面波である。遠洋でどんな大きな波になっていようと、海に潜っていけばだんだん波によるゆれはなくなる。このように、地震の表面波も地球の表面近くだけがゆれていて、地球の内部に潜れば潜るほど、そのゆれはどんどん小さくなる。

 表面波には下の図のようにラブ波とレイリー波がある。

 

表面波 上がラブ波、下がレイリー波:京都大学理学部久家慶子氏のページ
http://www-seis1.kugi.kyoto-u.ac.jp/visual/grams/index2.html(2008年11月16日現在つながりません)

 表面波はP波、S波よりも距離による減衰が少ないので、大地震だと地球を何周もすることがある。

表面波(レイリー波)の名のつけかた。震源から観測点まで近い円弧をたどったものがR1、さらに1周するとR3、以下R5、R7。
震源から遠い円弧をたどったものがR2、さらに1周するとR4、R6となる。
日本地震学会広報誌Web版「なゐふる」No.49(2005年5月)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/ssj/publications/NAIFURU/vol49/index.html

上は2004年12月のスマトラ島沖地震の地震波を、日本で観測した記録。地球を何回も回った表面波(レイリー波)が観測されていることがわかる。
日本地震学会広報誌Web版「なゐふる」No.49(2005年5月)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/ssj/publications/NAIFURU/vol49/index.html

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大森房吉大森房吉(1856年〜1923年)は、大森公式の他、地震計の開発、震災予防調査会としての仕事などを行った。地震学講座の助教授今村恒明が、関東地方に近い将来地震起こりそうだと発表したとき、学者はそのような根拠の薄いことをいうべきでないとして、今村明恒と鋭く対立した。関東大地震(1923年9月1日)当時は、オーストラリア出張中であったが、そこの地震計で日本に大きな地震が起きたことを知ったという。急遽帰国したが、脳腫瘍が悪化してその年に亡くなった。

  

大森房吉(左)と今村明恒(右):田中館愛橘記念科学館
http://www.civic.ninohe.iwate.jp/100W/04/035/index.htm
http://www.civic.ninohe.iwate.jp/100W/04/034/index.htm

今村明恒今村明恒(1870年〜1948年)は、津波の海底地殻変動説なども発表している。また1905年には、過去の統計から関東地方に大地震が迫っているという考えを発表した。大森房吉の死後は東大の教授となり、また私財をなげうって地震観測所(和歌山市)も作った。この観測所のおかげで戦争の混乱時に起きた東南海地震(1944年、M7.9)・南海地震(1946年、M8.0)の観測がかろうじてできた。今村は東海から東南海・南海地域での地震の可能性が高いと考えて、御前崎付近の水準測量を要求した(1944年ころ)。まさにその測量中(掛川付近)に地震が起きたという。

 もっとも、本当に今村明恒がきちんと関東大地震を予知していたかは別な問題であろう。今日でも、地震の予知はできていない、ただどこが危ない場所か程度である。今村明恒も過去の統計資料から、そろそろ関東地方で大きな地震が起きそうだと判断しただけである。

水準測量海抜高度を測量する。ふつうは国道沿いに決められている「水準点」の高さを測る。以前はこれは大変な労力を伴う作業だった。

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