第二部−3− 大気と海の科学

第2章 大気と太陽エネルギー

目次
1. 地表が吸収する太陽エネルギー
2. 熱の輸送
用語と補足説明

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1.地表が吸収する太陽エネルギー

 大気圏外で太陽に垂直な1m2の面が、1秒間に受け取るエネルギーは1.37×103J・m-2・s-1で、これを太陽定数という。ではそのうち、地表まで到達する太陽エネルギーはどのくらいだろう。

 まず、地球が受け止めている太陽エネルギーは地球の断面積である。地球の半径をrとすると、断面積はπr2である。この断面積で受け止めた太陽エネルギーを、全地球表面(面積は4πr2)に行き渡らせるとすると、単位面積(1m2)あたりで受け取るエネルギーは太陽定数の1/4になる。

 だが、さらに地球の約30%程度は雲の覆われている。この雲や、大気中の塵(ちり)、あるいは大気そのものによって太陽光線は反射したり、吸収されたりする。太陽からの入射エネルギーを100%とすると、地表に到達するのはその半分の50%(つまり1/2)程度でしかない。

 断面積の1/4、大気の反射・吸収によりさらに1/2となり、結局地表全体を平均すると地表が受け取っている(吸収している)太陽エネルギーは、太陽定数の1/4×1/2=1/8の1.71×102J・m-2・s-1ということになる

 また、地球を外から見ると、太陽からの入射を100%としたとき、およそ30%が地表や大気で反射されてそのまま宇宙に出て行く(下の図では短波長放射の28%がそれにあたる)。この反射の割合をアルベド(反射能)という。地球のアルベドは0.3である。逆に考えると、70%がいったん地表と大気に吸収されることになり、これが地球の温度を決めるエネルギーとなる。

 地球は吸収したエネルギーと同じエネルギーを宇宙に放射する。もしそうでないとすると、例えば吸収するエネルギーが放射するエネルギーより大きければ地球は暖まって温度は上ることになり、逆に吸収するエネルギーが放射するエネルギーよりも小さければ地球は冷えて温度は下がることになる。吸収するエネルギーと放射するエネルギーのバランスがとれると温度は安定する。地球の温度は長い目で見れば、変動はあるとはいってもほぼ安定していると考えれている(地球上の生物すべてが絶滅するような低温や高温にはなったことはない)。

 物体(地球)が放射するエネルギーは、その表面温度の4乗に比例する(面積と時間を一定とした場合)。これがステファン・ボルツマンの法則である。

 ステファン・ボルツマンの法則:E=σT4  ここでσ(シグマ)はステンファン・ボルツマン定数(5.67×10-8(J・s-1・m-2・K-4))
                           Eは放射エネルギー(J)、Tは物体の表面温度(K)

 地球(地表+大気)が吸収している太陽エネルギーは、上に書いたように地球のアルベド(反射能)が0.3だから、地球に届いている太陽エネルギー(太陽定数)の1/4×0.7=2.4×102J・s-1・m-2である。これだけを放射しなくてはならない。その温度はステファン・ボルツマンの式の左辺にの値(2.4×102J・s-1・m-2)を代入して、Tを求めればよい。

 2.4×102(J・s-1・m-2)=σT4   σ=5.67×10-8(J・s-1・m-2・K-4

 T4=4.23×109(K)

 T=255(K) (0℃=273Kだから255K=−18℃)

 単純に計算すると、地球の温度(地球全体を平均した温度)は−18℃ということになる。実際の地球全体の平均温度は+15℃である。つまり、単純計算で求めた温度よりも33℃も高いことになる。これが温室効果である。温室効果についてはこちらを参照

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2.熱の輸送

 地球全体では、太陽からの入射エネルギーと地球からの放射エネルギーは釣り合っている。しかし、地球上で細かく見ると、太陽から受け取るエネルギーの方が地球から放射するエネルギーよりも大きく、高緯度では逆に地球から放射するエネルギーの方が大きい。こうしてエネルギーの供給過剰の低緯度から、供給不足の高緯度へとエネルギーが運ばれている。具体的には、それは大気の大循環海流、水蒸気の潜熱という形をとる。

 ただし、水蒸気だけは亜熱帯高圧帯(緯度20°〜30°付近、年間を通じて高気圧におおわれているために天気のよい日が続く。陸上では砂漠が発達する。海では海水の蒸発量が多い)で発生した水蒸気の一部が低緯度に運ばれている。つまり水蒸気の潜熱は、緯度20°〜30°付近から赤道に向かって運ばれている。

 いずれにせよ、地球には大気や海水があるために、低緯度から高緯度への熱が効率的に運ばれることになる。このために、地球全体の気温分布が、大気や海水がない場合と比べて小さくなる。つまり、地球の気候を穏やかなものにしている。


国土環境株式会社
http://www.bioweather.net/column/weather/contents/mame007.htm

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用語と補足説明

地球の熱収支太陽からの入射エネルギーを100としたときの、地球全体の熱収支は下図のようになっている。各部の収支が釣り合っていること、つまりどの部分も暖まり続けることはないし、冷え続けることもなく、(1年間を通じて考えれば)一定の温度を保っていることがわかる。

 まず、地球を外から見ると、入射の100に対して、短波長放射28+長波長放射72=100で収支が釣り合っていることがわかる。成層圏も同じで、オゾンによる吸収3と二酸化炭素と水蒸気による放射3が釣り合っている。地表では太陽から直接届いた32+いったん雲に吸収され地表に放射された15=47と正味の放射18+伝導・対流5+潜熱24=47が釣り合っている。また、太陽からの入射を100とすると、地表に到達しているエネルギーは47(約1/2)である。

 大気は少し複雑であるが、水蒸気・エアロゾルによる吸収17+太陽エネルギーの雲による吸収5+地表からのエネルギー放射の吸収13+伝導・対流5+潜熱24=64が、おもに赤外線として宇宙空間に64放射されていて、ここでも釣り合っている。

 地表が赤外線の形で放射しているエネルギーは114もあり、地表の到達している47どころか、太陽からの入射100よりも大きい。このままでは地球は冷えていくことになる。しかし、大気中の水蒸気・二酸化炭素などがそれを吸収し、一部は宇宙に向けて放射するが、かなりの部分(96)は地表に再放射している。これが温室効果である。温室効果については、こちらも参照

 オゾンや水蒸気ばかりではなく、大気を構成している他の分子も太陽エネルギーを吸収している。細かいことはこちらを参照

 なお、地表からの伝導・対流で熱が大気に運ばれているのは、地表に接した空気が暖められて上昇するということである。潜熱は、地表で水が水蒸気になるときに熱を奪い、それが大気中で凝結(凝縮)して熱(エネルギー)をまわりに放出するということである。


「地球システム学」(岩波地球惑星科学講座2、1996年)p.120の図を簡略化。

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大気による吸収オゾンばかりではなく、他の分子もそれぞれ異なった波長の太陽エネルギーを吸収している。下図参照。大気圏外のおける太陽放射がほぼ黒体放射と見なせることに注意。可視光線(波長0.38nm〜0.77nm)の大部分と、赤外線の一部領域では、大気による吸収が小さいことに注意。これを大気の窓という。


リモートセンシング研究センター:高村民雄
http://www.cr.chiba-u.jp/edu/2004/RSandEV/Takamura2004.pdf

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物体の放射エネルギー物体(厳密には黒体)は、温度よって決まるエネルギーを放射している。まず、放射エネルギー総量は物体の表面温度の4乗に比例している。これがステファン・ボルツマンの法則である。もう一つ、その物体が放射しているエネルギーの最大強度の波長は物体の表面温度に反比例している。つまり、表面温度が高い物体ほど波長が短いところが強くなっている。これがウィーンの変位則である。そこで、物体(黒体)からの放射エネルギーのグラフをかくと下図のようになる。下図では可視光線(波長380nm〜770nm)の領域に色が塗ってある。この領域よりも右側(波長が長い方)が赤外線の領域、左側(波長が短い方)が紫外線の領域になる。太陽の最大強度の波長は460nmである。

 ステファン・ボルツマンの法則:E=σT4  ここでσ(シグマ)はステンファン・ボルツマン定数(5.67×10-8(J・s-1・m-2・K-4))
                           Eは放射エネルギー(J)、Tは物体の表面温度(K)

 ウィーンの変位則:λmax・K=2900   λmax(ラムダ・マックス)は放射エネルギーが最大の波長(μm)  T:表面温度(K)

 この温度とエネルギー・波長の関係のアニメーション:http://lectureonline.cl.msu.edu/~mmp/applist/blackbody/black.htm

横軸が波長、縦軸が放射エネルギー。上左は表面温度が6000K(太陽程度)〜3000K、上右は3000K〜1500K。下は300K程度(地球程度)の放射エネルギーの図(ほとんどがInfrared(赤外))。一番強いエネルギーを出している波長が温度が高くなると短くなることに注意。また、太陽程度の表面温度だと放射エネルギーの大部分は可視光線の領域になっている。だからこそ、地球で進化してきたわれわれ人類は、この波長を感じることができる(可視)になっているのかもしれない。
http://hyperphysics.phy-astr.gsu.edu/hbase/bbrc.html#c4

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大気の窓太陽からの放射エネルギーは「窓領域」の波長のエネルギーが多い。つまり、太陽からのエネルギーの大部分は、雲がなければ大気を素通りして地表に到達することになる。大気の底に住んでいるわれわれが宇宙を見ることができるのもこのためである。

 一方地球から放射される赤外線の大部分は大気中の水蒸気や二酸化炭素によって吸収される。しかし、赤外線の領域でも一部は大気をほぼ素通りするものもある。“ひまわり”などの気象衛星は赤外線カメラも搭載しており、夜の地表を撮影することができるのはこの窓のためである。また、誕生間もない原始星の様子も赤外線を観測することによって浮かび出てくるが、こうした宇宙から来る赤外線ももちろん大気の窓を通過してきたものを観測するわけである。原始星の観測は国立天文台すばるのサイトを参照。

 夜間に晴れていると、この大気の窓からエネルギーが宇宙に効率的に流れていく。そのために地表の温度が曇っているとき場合と比べて大変に低くなる。これを放射冷却という。


リモートセンシング研究センター:高村民雄
http://www.cr.chiba-u.jp/edu/2004/RSandEV/Takamura2004.pdf

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このページの参考となるサイト

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