第二部−2− 地球の科学

第12章 地質構造と地質調査(2)

目次
2. 化石
用語と補足説明
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化石

 過去に生きていた生物の遺骸(やその一部)、あるいは生物の生活の痕(あと)が地層中に残っていることがある。これが化石である。生物の体の硬い部分である骨とか歯、貝殻などはそのまま残っていることがある。また、生物の体が別の鉱物に置き換えられて残っていることもある。例えば木が二酸化ケイ素に置き換わったケイ化木というものもある。

 生物の体は残っていないが、その遺骸が鋳型となってその形が残ることもある。これを印象化石という。

 特殊な例では、シベリアのツンドラ(永久凍土)中保存されたマンモスもある。石油(コールタール)の池に落ちたサイの化石もある。砂漠などでミイラ化したものもある。また、木の樹脂に閉じこめられた昆虫が、その樹脂が琥珀(コハク)になりその中で保存されているものもある。これらも化石である。保存状態のよいものは、細胞中のDNAを取り出すこともできる。

 顕微鏡でないと見えないほど小さい花粉、有孔虫、放散虫、珪藻、さらにはバクテリアなどの化石もあり、これらを微化石という。最近では、地層中に残った生物起源の有機物(アミノ酸など)の研究も行われている。

 生物の足跡・はい痕、巣、食べ痕、糞、消化を助けるために飲み込んでいた胃石や、病気の痕跡などが残ることもある。こうした生物の生活の跡が残っているものを生痕化石という。例えば足跡から、移動の速さ、あるいは単独行動か群れで行動していたのかなどもわかる。巣穴の向きから地層の上下を判定することもある。

 また、生物か生活していた場所で化石になったものを現地性化石、違う場所に運ばれて化石になったものを異地性化石という。現地性化石からの当時のその場所の環境が推定できることもある。また、異地性化石の分布を調べると当時の水流(海流など)の様子がわかることもある。死後によく海水に浮くオーム貝の殻は、海流に運ばれていろいろなところで堆積する。この分布を調べると当時の海流を推定できる。

 こうした化石の研究から、生物が地質時代を通して絶滅・進化してきたことが明らかになった。逆にこうした生物(とくに動物)の進化の段階により、地質時代を区分している。地質時代を決定できる化石を示準化石という。示準化石を使えば、離れた場所の地層の新旧を決めることもできる。示準化石として適しているのは、特定の時代にしか生存していないが、分布が広い生物である。そうして生物は海に漂い広い場所に運ばれるプランクトンとか、移動能力が高い大型動物などがいい。

 一方、ある特定の環境にしか住めない生物は、当時の環境の推定に役に立つ。こうした化石を示相化石という。示相化石として適しているのは、生存できる環境が狭いが、今日まで生きていると当時の環境の推定が楽である。例えば、現在の造礁サンゴは暖かく(水温20℃以上)のきれいな浅い海でしか生活できないので、こうしたサンゴの化石が出れば当時その場所もそういう環境だったのだろうと推定できる。サンゴなど石灰質の殻の酸素同位体比から、直接当時の水温を推定する方法もある。

 当然体の組織の硬い部分ほど化石として残りやすく、軟体部は残りにくい。また、個体数が多かった生物種ほど化石になる確率が高い。しかし、化石になるのは“運がいい”もので、そう考えると多くの生物種は化石としては残っていないだろう。

有孔虫の仲間フズリナの殻の化石からできた石灰岩。丸く見えるのがすべてフズリナの化石。1円玉の直径は2cm。 左の拡大。フズリナの構造が見える。これでも単細胞生物。
泥岩中の貝殻の化石。左上のようなものを雌型、右下のようなものを雄型という。 頁(けつ)岩中に見つけた生物のはい痕。どういう生物かは不明。
この石の塊を割ってみる。 中には立派な魚の化石。ブラジル旅行した生徒からのおみやげ。上が雌型、下が雄型。
恐竜の足跡の化石。波打ち際の砂浜を、2種類の小さい恐竜がかなりの速さで歩いたようだ。群馬県神流町(かんなまち)瀬川。2005年4月撮影。全体の様子はこちらを参照 左の写真の左上に見える恐竜の足跡。これはかなり大きな恐竜がゆっくり歩いた跡のようだ。

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用語と補足説明

江古田植物群花粉は堅いので、化石として残りやすい。さらに、一度に出てくる数が豊富なので、当時の植生、環境を復元するのに役に立つ。例えば東京都中野区から江古田植物(化石)群といわれるものが出る。これは約2万年〜3万年前の植物化石である。植物そのものの化石のほか、花粉もたくさん出てくる。これらの植物は針葉樹のイチイ、アオモリトドマツ、エゾマツ、コメツガ、カラマツ、チョウセンマツなどであり、この植生から当時は現在より年平均気温で7℃〜8℃低かったと推定される。これは日光戦場ヶ原、あるいは北海道中部〜北部の気温に相当する。この時代は一番新しい氷期(ウルム氷期)で、地球全体の気温が低かったのだ。

酸素同位体比石灰質(炭酸塩鉱物、CaCO3)の殻を持つ海生生物(有孔虫・サンゴ・貝など)の殻のCaCO3の酸素の同位体比を調べる。酸素にはふつうの16Oよりも少し重い18Oがある(ごくわずかに17Oもある)。この比率はほぼ一定であるが、海水温や大陸氷河の発達状況で世界的に微妙に変化する。経験的に、海水中で沈殿した炭酸塩鉱物中の18Oと16Oの比と水温の関係の経験式が得られているので、それを利用して水温を推定する。

 また、18Oよりもほんの少し軽い16Cの方が蒸発しやすいので、雨・雪になるときは16Cの割合が少し多くなり、逆に海水中では18Oの割合が少し多くなる。昔の雪が固定された氷河の氷中の(H2OのO)の割合は、大規模な氷床が発達する氷期により小さくなる。こうしたことからも過去の気候が推定できる。ただし、氷床の氷では数十万年前からせいぜい100万年前程度までしかさかのぼることはできない。

同位体同じ元素でも質量の違うものが存在する。元素の性質は原子核の中の陽子の数=電子の数できまる。しかし、原子核の中の中性子の数が違うものもあり、これを同位体という。同位体は化学的な性質はまったく同じだが、原子の質量が異なるものである。原子の質量は、電子は陽子や中性子と比べると大変に質量が小さいので、陽子の数+中性子の数で決まる。酸素の原子核の中の陽子の数は8個であるので、中性子が8であれば合計で16、つまりその酸素は質量数が16なので16Oと書く。18Oは陽子8個+中性子10個ということになる。

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国立科学博物館常設展示:http://shinkan.kahaku.go.jp/index_jp.jsp の地下2階、地下1階。

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