第一部−2− 宇宙の科学

このページの目次
第4章 太陽系(3)
1.惑星(2) 惑星各論−2−
b.金星
用語と補足説明
参考になるサイト

第4章 惑星

1.惑星(2) 惑星各論−2−

b.金星(Venus)

 金星は太陽、月に次いで明るく見える。太陽の見かけの等級は-26.8、満月のときの見かけの等級は-12.6であるのに対し、金星が一番明るく見えるとき(最大光輝)は-4.7である。次が火星-3.0、木星-2.8と続く。その次は水星の-2.4であるが、実際には水星はそれほど見やすい天体ではない。金星は明けの明星、あるいはよいの明星として見えるが、すでにギリシャ時代にはこれは同じ天体であることはわかっていた。

 金星は太陽から2番目の惑星である。平均距離は0.7233AUである。軌道の離心率は0.0068と一番小さい。金星の軌道はほとんど円といってもよい。

 金星の自転は、天王星をのぞいた他の惑星が公転の向き回っているのに対し、公転の向きと逆向きである(公転面に対して177°の傾き、傾きが90°以上であれば公転の向きに逆向きということである)。このため、対恒星公転周期0..6152年(224.7日)よりも対恒星自転周期243.02日の方が長いが、金星上での太陽日は約117日(116.8日)となり、水星のように1日が1年より長く続くことはない。金星の自転と公転の間には尽数関係はないが、金星と地球の会合周期584日と、この金星上での太陽日116.8日は、1:5という尽数関係になっている。つまり、地球に一番接近したときに(内合の位置に来たときに)、地球の方を向く面が決まっているということである。もしかすると、金星の自転が現在の値になったのは、地球の引力の影響かもしれない。

 金星には磁場がなく、また衛星もない。

 金星は地球と双子の惑星ともいわれる。たしかに半径は6052kmで地球の95%、密度も5.24×103kg・m-3と地球の5.52×103kg・m-3に近い。この値から、内部構造は地球に近いものと思われる。

 しかし、金星の表面の様子は地球とはまったく異なる。

 まず、金星はいつも全部が雲に覆われている。ただし、地球の雲は細かい水滴か氷晶であるが、金星の雲は濃硫酸の粒である。おそらくこの濃硫酸は、大気中の二酸化炭素、硫化物、水蒸気と太陽光が反応してできたものだと思われる。この雲は非常によく太陽の光を反射するので、金星は明るく見えるのである。金星表面の反射能(アルベド)は0.78(「理科年表2004」丸善)であり、他の地球型の惑星(地球0.30、火星0.16、水星0.06)と比べて圧倒的に大きく、木星型の惑星(天王星0.82、土星0.77、木星0.73、海王星0.65)なみである。地球の雲は赤外線でよく見えるが(天気予報のときの衛星画像参照)、金星の雲は紫外線でよく見える。この雲は上空を吹く100m・s-1という強風にいつも吹き流されている。

 金星の大気は、スーパーローテーションと呼ばれる運動をしている。金星の自転は地球とは逆方向、つまり東から西で、自転周期は243日と遅く、その速度は赤道で6km/hである。ところが、金星の雲は360km/hで東から西へと吹いている。つまり金星大気は、金星の自転の60倍という速さで動いている。一方、地球の偏西風の速さは自転速度のせいぜい1割である。つまり、地球の大気は固体地球の自転に引きずれれて動いているといってもいい。地球大気の大循環(偏西風や貿易風といった大規模な風)には地球の自転がかかわっており、惑星の大気の大循環の風速が、自転の速さを超えることは考えにくいと考えられてきた。下の金星探査機、ビーナス・エクスプレスやあかつきはこの金星大気の観測を主な目的としている。なお、火星の大気は地球の大気と同じような運動をしているが、木星の衛星タイタンの大気もスーパーローテーションである。

http://www.stp.isas.jaxa.jp/venus/sci_meteor.html

 さらに表面は460℃(「比較惑星学」岩波地球惑星科学12、1997年、以下大気のデータ同じ)、90気圧(深さ900mの海のなかの圧力)という猛烈な世界である。また金星の夜は60日近く続くが、夜になっても気温はほとんど下がらない。金星の地表を吹く風は弱い(せいぜい数m・s-1)ので、大気が夜の側に熱を運んでいるのではなく、金星の大気は非常に冷えにくい性質を持っているためと思われる。460℃という温度は亜鉛の融点420℃を越えている。ただこの高温のために、濃硫酸の粒は地表近くでは存在できない。だから、濃硫酸の雲から濃硫酸の雨が降ることはない。

 金星は水星よりも太陽から1.87倍遠い。つまり太陽から受ける単位面積(たとえば1m2)あたりのエネルギーは、距離の2乗に反比例するから、水星の0.286倍(1/4にもならない)でしかない。しかもいつも分厚い雲に覆われているので、地表に到達する太陽エネルギーはさらに小さい(冬の曇った日の明るさ程度)。単純に計算すると-50℃程度になるはずである。それにも関わらず金星の表面が高温になっているのは、金星の濃い大気の主成分が二酸化炭素(CO2、96.5%±0.8%)で、その温室効果のためである。金星大気はほかにちっ素(3.5%±0.8%)がおもで、水蒸気もごくわずかに存在する(0.002%〜0.0015%程度)。この温室効果により、500℃以上も温度が高くなっている(地球の温室効果の影響は33℃)。温室効果についてはこちらを参照。そこでも書いたが、金星は地球が熱暴走した状態になっているともいえる。そういう意味では、ほんとうは双子の惑星のはずだが、ごくわずかの差(太陽からの距離)があったので、表面の状態がこのようにまったく異なってしまったのである。地球も何らかのきっかけで熱暴走を始め、金星のような状態になってしまうかもしれないのだ。

 こうした過酷な世界なので生物の存在はもちろん考えられない。こうした状態であるとわからなかった初期の金星探査機はことごとく失敗に終わっている。とくに軟着陸して探査するためには、分厚い濃硫酸の雲を突き抜け、さらに地表の470℃、90気圧に耐えなくてはならない。

 何回か旧ソ連の探査機が軟着陸に成功し、またアメリカの金星を回る衛星のレーダー観測で金星表面の様子や、大規模な地形についてはよくわかるようになってきた。それによると、金星の表面は火成岩(玄武岩?)におおわれており、表面の60%は平原、高地は13%、低地は27%である。なかには高さ(金星の基準面から)10000mを越えるマクスウェル火山もある。火山活動は現在でも多分続いていて、また分厚い大気の侵食作用もあるので、古いクレータは残らない。だから、表面がクレータだらけけの月や水星などとはずいぶんと異なっている。

金星を覆う濃硫酸の雲(紫外線画像)。パイオニア・ヴィーナス号撮影。 マゼランによる全金星表面。白っぽい部分は凹凸が激しい地形。
ヴェネラ9号、10号が送ってきた金星表面の写真
ヴェネラ13号が送ってきたカラー写真
マゼランのデータから作成した金星表面。イシュタール大陸。クレーターや火山も見える。 マゼランのデータから作成した金星表面。コロナと呼ばれる地形。粘性の低い溶岩かマントル・プルームがつくったというパンケーキ状の地形。
マゼランのデータから作成した金星表面。シフ火山。溶岩流の跡も見える。 マゼランのデータから作成した金星表面。高さ8000mを越えるマート・モンス火山。画像では高さを誇張してある。

写真はすべてNSSDC Photo Gallery:http://nssdc.gsfc.nasa.gov/photo_gallery/

戻る  このページのトップへ  目次へ  home


用語と補足説明

VenusVenusはローマ神話では美と愛の女神である(ギリシャ神話のアフロディテ)。

最大光輝金星と地球の距離は大きく変わるし、見かけの形も太陽との位置関係で満ち欠けをする。満月の形に見えるときは外合の位置であるが、地球からも一番遠いときであるし、そもそも昼間であるので見にくい。地球に一番近づくのは内合の位置であるが、このときは新月のようになっているので見えない。そこで、地球から見て一番明るく見えるのは、太陽の光を受けて光り輝いている部分の大きさと、地球と金星の距離のバランスで決まる。実際には、東方最大離角、あるいは西方最大離角よりも少し地球寄りに来たときに一番明るく見える。

金星探査機旧ソ連は1961年から精力的にヴェネラ・シリーズ探査機を打ち上げている。1967年のヴェネラ4号はパラシュートで観測器を大気中に投下し大気の主成分が二酸化炭素であることを明らかにした。1970年にヴェネラ7号が投下したプルーブは金星に硬着陸して、表面が470℃、90気圧であるということを明らかにした。また、1975年にはヴェネラ9号と10号(65分間活動)は相次いで軟着陸に成功して金星表面の写真を送ってきた。1981年のヴェネラ13号と14号も相次いで軟着陸に成功し、金星表面で2時間ほど活動した。この際カラー写真も送ってきている。このヴェネラ13号と」14号以後、金星表面に軟着陸した探査機はない。旧ソ連は1983年にヴェネラ15号、16号を打ち上げたが、これは軟着陸をせずに金星のまわりを周回して、レーダー(合成開口レーダー)を使って金星の表面の様子を調べた。これで旧ソ連のヴェネラ・シリーズは終了した。

 一方アメリカは、1962年のマリナー2号が金星のそばを通過した際、磁場や放射能帯がないことを確認した。1972年のマリナー10号が金星のそばを通過した際、写真撮影や観測を行った。さらに1987年にパイオニア・ヴィーナス1号・2号を相次いで打ち上げ、周回軌道上からのレーダー観測を初めとする精密な観測を行い、さらに4つずつのプルーブを金星に投下して、大気の観測を行った。さらにアメリカは1989年にマゼラン号を打ち上げ、周回軌道上からより精密な観測を行った。地形の分解能は100m〜300mで、旧ソ連のヴェネラ・シリーズで得られたものの10倍の精度だという。

 なお、木星に行く途中のアメリカのガリレオ探査機も1990年に金星のそばを通過し(金星を利用して加速するスウィングバイ(スイングバイ)を行った)、金星の画像を撮影している。

 2005年11月に打ち上げられたヨーロッパ宇宙機関(ESA)が打ち上げたビーナス・エクスプレスは、2006年4月に金星の周りを回る周回軌道に乗った。

 2010年5月に打ち上げられた日本の「あかつき」は、2010年12月に金星の周回軌道に乗る予定だったが、失敗し、6年後に再挑戦の予定である。

戻る  このページのトップへ  目次へ  home


このページの参考になるサイト

日本惑星協会:http://www.planetary.or.jp/

宇宙航空研究開発機構のオンライン・スペースノート:http://spaceinfo.jaxa.jp/note/note_j.html

The Nine Planets(英語):http://www.nineplanets.org/(日本語に訳したサイトもあるが更新が遅れ気味)。本家では「nine Planet」→「nine() Planet」としている。

NSSDC Photo Gallery(英語):http://nssdc.gsfc.nasa.gov/photo_gallery/

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻:http://www.eps.s.u-tokyo.ac.jp/jp/gakubu/geoph/space/

戻る  このページのトップへ 目次へ  home